ショッピングセンター型患者SNS: Inspire

inspire

様々な試行錯誤が続けられている米国患者SNS市場だが、その中でもInspireはきわめてユニークなスタイルの患者SNSだ。Inspireは、患者支援団体をはじめさまざまな健康・保健団体に疾患SNSスペースを提供している。つまり、Inspireがいわば「大家」としてサイト全体を開発運営し、そこへ「テナント」として健康・保健団体が集まるという構造になっている。ショッピングセンターのデベロッパーとテナントの関係を想起すればよいだろう。

これはある意味で非常に賢いやり方だ。なぜなら、患者会など「テナント」側の会員がそのままInspireの新規会員になってくれることが見込まれ、新たにゼロから会員募集をする必要がないからだ。いわば「テナントが会員を連れてきてくれる」という仕組みになっているのだ。また、それぞれの団体は当該疾患についての専門的な知識・情報・経験を豊富に蓄積しているから、これら資産をそのまま疾患別コミュニティ・サービスに活かすことができる。おまけに有力テナント(著名な健康・保健団体)の知名度や信頼感は、サイト全体の社会的ステータスを上げることに寄与するだろう。また、それぞれのコミュニティの管理運用のほとんどは「テナント」に任せることになるから、デベロッパー側は管理運用負担を大幅に軽減できるわけだ。まさに一石四鳥だ。

Inspireは現在、44の疾患分野、766団体からなる。全体の会員数は約16万人であり、それぞれの団体が出店しているコミュニティの平均ユーザー数は208人となる。かなり実績のある患者支援団体も出店している割には、何かもう一つ集客が弱いような気もする。その原因としては、各団体の会員が従来サービスに満足しており、それ以上のSNSサービスのようなものにあまり魅力や必要性を感じていないことが考えられる。

たとえば日本の患者会を考えてみると、総じてウェブでの活動は非常に不活発であることに気づく。おざなりのウェブサイトは一応あるものの、それらのコンテンツは概ね非常に貧弱で魅力に欠ける。なぜこうなっているのかと言えば、患者会活動がリアルで完結しており、それ以上にウェブを活用するニーズが低いためだと思われる。

そう考えてくると、どうも日本の患者会や米国の患者支援団体において活動しているメンバーと、最近言われるe-Patientsという人たちは、まったく違うニーズを持った人々なのかもしれない。そして、患者SNSがターゲットとすべきなのはe-Patientsやその予備軍であり、リアル活動団体の中心メンバーなどではないのだろう。Inspireは、この「ターゲットの不一致」をどう乗り越えられるのか。

ところで日本でも患者会の連合を作ろうという動きが出てきている。「ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会」(VHO-net)は患者会をはじめ諸団体のネットワークをめざす取り組みとして注目される。これなど、単純にInspireが参考モデルになりそうだが、そう簡単ではないような気もする。患者会など日本の健康・保健団体の非常に根強い「リアル志向」を考えると、ネット活用&展開はなかなか難しそうだ。逆に、「なぜ、こうまでリアル志向なのか?」と問いたい気もする。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>