進化するPHR: 静的PHRから動的PHPへ

keasここ数年、EMR、EHR、PHRなど医療情報システムの概念定義をめぐり、混乱や議論が続いてきた。このブログでも有力な定義など紹介してきたのだが、どうもまだすっきりした整理ができていないと感じてきた。特に米国のEHR認証問題に関連して、消費者向けにEHRをPHRへ転用すべきだという議論まで出てきており、実はEHRとPHRの区分が不分明になってきている。またヨーロッパでは国営EHRをPHRと同一視するような見方が多い。わが国では「電子私書箱」のような個人レポジトリ構想が繰り返し言及され、PHRなどもこれとセットで語られることが多い。

だが一方には、これら「概念の混乱」や「概念論争」を越えて、実際に稼働し始めたHealth VaultやGoogle Healthがどんどん進化して行っている現実がある。個々ばらばらながらもこれら「PHR」進化は、混乱する概念定義論争を尻目にはるかに先行している。このような状況において、全体を一望睥睨するような視座を持つことは困難だが、ある一つの方向へ徐々に収束しているのを見てとることはできる。PHRに関して言うと、それは従来の「個人医療情報を収集し記録する」という静的レポジトリから、個人が自分の医療情報を活用する動的プラットフォームへ、という方向だと思われる。

一昨年からウェブベースで立ち上がったPHRを見ると、特にHealthVaultに顕著であるが「個人医療データのエコシステム」という方向がますます明確になってきている。つまり、HealthVault単独ですべての関連サービスを提供するのではなく、あくまでも個々のサービスはサードパーティーが開発し、HealthVaultはそのプラットフォームに徹するというコラボレーションイメージが具現化されてきている。もともと、多数分散する医療機関や検査ラボから、個人医療情報をアグリゲートして一カ所に体系的に保存することが従来のPHR像だったのだが、今やその保存されたデータをいかに活用するかへと焦点は移っているのである。その際、PHRの概念は単なる「個人医療データの格納所」を超えて、様々なサードパーティーが提供するサービスを利用して、データを医療選択等に活用するためのプラットフォームへと変化したのだ。もはやPHRではなく、これをPHP(Personal Health Platform)と呼ぶべきだとの提案も出てきている。(“Time to Kill the PHR Term: Part 2″)

「PHP」としての陣容構築において、HealthVaultのほうがGoogleHealthよりも一歩先んじているのは間違いないだろう。HealthVault上で稼働するサードパーディーのアプリケーション例として、最近、MyMedLabKeasのケースがあげられる。MyMedLabはこのブログでも紹介したことがあるが、消費者が医療者を介さずにダイレクトに検査を発注しデータを入手するシステムである。このサービス開発には、Health2.0ムーブメントの論客であるスコット・シュリーブ医師が参画している。またKeasだが、これもこのブログではおなじみの、あのアダム・ボスワース氏(GoogleHealth前開発責任者)が開発した医療サービスとして注目される。まだ非公開モードだが、これは検査データを元に、最善のケアプログラムをユーザーに提案する画期的なサービスだ。これら二つのアプリケーションはHealthVaultをプラットフォームとして提供される予定である。そしてこれらは互いに独立していながら、プラットフォーム上では「検査データ入手-分析提案」と連動してユーザーに利便性を提供するのである。これはまた、ある意味では、ユーザーが直接コントロールするまったく新しい「end-to-end」医療サービスであると言えるかもしれない。

このように従来の静的なPHR像とは違い、「ユーザーがデータを動的に活用するアプリケーション群のプラットフォーム」という、ユーザーがダイレクトにコントロールする新たな医療システム像が登場しつつあることに注目したい。三宅 啓  INITIATIVE INC.


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