i-Japan戦略 2015

医療情報はウェブ上に氾濫しているが、本当に自分にとって必要な情報が見つからない。依然としてこのような消費者、闘病者にとっての「現実」が存在しており、これをどう解決するかが、ウェブ医療情報サービスに問われているのである。そして皮肉なことに、最も入手が難しいのが自分の健康状態に関する医療情報である。自分に関する医療情報は医療機関のEMRやEHRに蓄積されているはずだが、その情報に消費者・闘病者が直接自由にアクセスすることはできない。「自分に関する情報」であるのに、それにアクセスすることさえできないという、きわめて理不尽な状況がある。

たしかにEMRやEHRは医療者側の業務システムであり、消費者・闘病者がアクセスすることは想定されていない。だがこれでは消費者・闘病者側が自分の健康に関心を持ち、あるいは主体的に自己の疾患と向き合うことはできない。そこでPHRが必要になってくる。

先週、日経夕刊で政府の「電子私書箱」構想の記事を目にした。ここ二-三年の間に、たびたび目にしてきた「電子私書箱」だが、記事にはPHRに近い機能が盛り込まれているように書かれていた。また昨年来、経産省が中心になって「日本版PHR」の研究会や実証実験が進められていることも承知しているが、正直のところ、これら官庁主導プロジェクトを積極的にトラッキングしようという意欲も関心も薄れるばかりだ。久しぶりに「電子私書箱」や「健康情報活用基盤構築のための標準化及び実証事業」などの動向を少し調べてみたが、「電子私書箱」については、6月30日に発表されたグランドデザイン「i-Japan 戦略2015」における「各論」という位置づけになっていることがわかった。

この「i-Japan 戦略2015」では「三大重点分野」として次の各分野があげられている。

  1. 電子政府、電子自治体分野
  2. 医療、保険分野
  3. 教育、人材分野

だが「電子私書箱」はあくまで上記1の「電子政府、電子自治体分野」における方策と位置付けられており、どうやらこれは年金など社会保険情報や各種行政情報の個人情報管理ツールであるようで、これと個人医療情報との関係は明確ではない。むしろ個人医療情報については「日本版EHR(仮称)の実現」という項目で言及されているのだが、このあたりグランドデザイン作成者側の医療情報システム概念が混乱しているのではないか。たしかにEHRやPHRなどのシステム概念は紛らわしいのだが、ここを明確化できないと、グランドデザインとしてあまりにも脆弱である。

とはいえ、これ以上このグランドデザインの細部に立ち入るつもりはない。とにかくすべての消費者・闘病者が、自分の医療情報を含めすべての医療情報に素早く容易にアクセスできるような、そんな社会の実現をめざさなければならないのだが、それは官庁や医療界に期待することではなく、われわれベンチャーをはじめ企業が自発的に取り組み開発していくことだと思う。つまり、旧来の医療およびその関係者集団の「外部」からしか、これらを解決する発想や行動は生まれてこないはずなのだ。Google Healthがその実体以上に評価され期待されたのも、Googleが医療界のアウトサイダーであるからこそ「Googleなら、何か新しいことを医療分野で実現してくれるだろう」との期待感が米国社会にあったためと言われている。

官庁に期待するのは、余計なお節介をやめて、現実にフィットしない諸制度を刷新し、規制を緩和し、イノベーションの自由度を高めることだけだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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