患者体験は医療を変える

昨日エントリで、HCAHPSやCHIなど患者体験調査について振り返ってみた。考えてみると、ピッカーメソッドを研究し日本版患者体験調査を構想してから現在のTOBYOプロジェクトに至るまで、ずっと私たちは「患者体験」ということにこだわってきたのだとあらためて認識した次第だ。

患者体験調査においては「体験された事実の頻度」を計測し、体験を数量化した上で分析することをめざしていたわけだ。それに対し今のTOBYOプロジェクトで私たちがやっていることは、体験ドキュメントを収集し、共有し、DB化した上で全文検索可能にすることである。このようにアプローチ手法はかなり違うが、「患者体験」に焦点を絞っている点では同じと言える。

最近「リサーチ革命」という言葉が、Health2.0コミュニティでしばしば語られている。これはPatientsLikeMeや23andMeなどでおこなわれている、患者の自発的参加に基づくネット利用の新しい医学調査研究手法の出現を指している。これら新しいタイプの調査研究手法は、従来の調査研究にくらべ、圧倒的なスケールメリットとコスト優位を実現している。たとえばこの春から23andMeが取り組んでいる「全世界一万人のパーキンソン患者コミュニティによる新治療・新薬開発プロジェクト」などは、これまで実施自体が不可能な規模であり、しかも準備に長期間を要するプロジェクトであったが、いまや安く早く実現することが可能になっている。この場合「患者体験」は、定量的あるいは定性的の両面で収集され分析されるはずである。

このような新展開を見ていると、HCAHPSやCHIなどが、もはや古色蒼然と見えてしまうのは仕方ない。そもそもHCAHPSやCHIが最終的にめざしたのは、医療機関の品質を客観的に計測し、相互に比較可能とすることであった。それに対し進行中の「リサーチ革命」は、「疾患の克服」自体をめざしている。つまり「患者体験」とは、医療において汎用性があり、様々なフェーズにおいて問題解決力のある情報なのである。これまでこれら患者体験は、情報として自由に流通する経路もなく、「共有して有効活用する」という原理すら定かではなかった。むしろ古い情報観や業界慣行が、自由な情報流通と情報共有を阻害してきたとも言える。

今年になって「医療情報の流動性の確保」や「医療情報共有の権利」など新しい原理が、Health2.0ムーブメントの中で提起されていることに注目したい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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