米国患者SNSと欧州製薬メーカーの戦略的提携

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米国の代表的患者SNSであるPatientsLikeMeは、6月15日、ベルギーの製薬メーカーUCB社と共同して癲癇患者プラットフォームを構築する戦略的提携を発表した。このプラットフォームは2010年の早い時期に立ちあげられ、診断・予後・治療計画に関わりなく、とにかく癲癇を患っている患者すべてから得られた情報を収集、分析、研究することをめざしている。

UCB社はベルギーのブリュッセル本社の製薬メーカーだが、特に中枢神経系と免疫不全の分野にフォーカスしており、世界40カ国で1万人の従業員を擁している。同社CEOのRoch Doliveux氏は今回のPatientsLikeMeとの提携について、次のように述べている。

UCBは、長年にわたって過酷な条件にある人々の生活の改善に取り組んできた。今回の提携は、初めて患者に彼らの体験や実環境データで、現在進行中の癲癇研究に貢献することを可能にするという意味でエキサイティングなものだ。

UCB社はこの提携によって、患者コミュニティをPatientsLikeMeと共に立ち上げる最初の製薬メーカーとなる。この新しい癲癇患者プラットフォームによって同社は、癲癇患者とその生活、そして治療体験をより良く理解することができる。一方、PatientsLikeMeは、癲癇発作コントロールの進捗状態や治療目標の達成状況をリアルタイムに記録し、それらをコミュニティで共有することによって、患者、ケアギバー、研究者、企業が疾患をより一層理解することを支援する。PatientsLikeMeのBen Heywood社長は次のように述べている。

毎日、私たちが私たちのサイトを見て思うのは、患者が彼らの疾患について、さらにもっと学ぶことに関心を持っているということだ。UCB社のような指導的な企業と力を合わせることによって、私たちはその企業における「患者の声」のボリュームを上げることができる。そしてその企業はその声を聞いて、より良い治療とより良いケアへ向け、仕事を開始するだろう。

今回の提携のプレスリリースを読んで、いよいよHealth2.0と医療産業エスタブリッシュメントとのジョイントが本格的に始まったと思った。それも「癲癇治療方法の開発」という、きわめて具体的な問題解決を目指したものであるところが注目される。このブログでも春先から指摘してきたが、PatientsLikeMeに見てとれるように、患者SNSは単なる「人的交流コミュニティ」という枠を超えて、特定疾患の治療法などを具体的に解決する方向へ進化しはじめたのである。このことは、従来の製薬メーカーの治験などレガシー開発手法にもインパクトを与えるだろうと見ていたが、やはりPatientsLikeMeがその具体例を最初に提示してくれた。そして、これらHealth2.0サイドから発せられた「マスコラボレーションによる医療研究開発」という問題提起に対し、まず欧州の製薬メーカーが反応したところも興味深い。

Health2.0は、医療の制度改革だけをめざしているのではない。同時に、医療の研究開発を新しい手法で加速化することもめざしているはずだ。現在、難病と言われ何の治療方法も確立されていない疾患を、できるだけ安いコストでしかも早く克服すること。このような具体的な問題解決の方向性を持つことによって、Health2.0と医療エスタブリッシュメントのジョイントは今後増えてくると思われる。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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