米国、医療過誤で10年間に100万人が死亡!?

 err_is_human先日、米国消費者団体のConsumers Union(CU)が発表した医療過誤、医療事故についてのレポートが話題になっている。レポートのタイトルは「To Err is Human – To Delay is Deadly」だが、「To Err is Human」とは今から10年前、1999年に米国IOM(医療研究所)の「医療の品質に関する委員会」が出した有名なレポートの表題でもある。(”To Err is Human: Building a Safer Health System”)。このIOMのレポートは日本でも「人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して」(日本評論社,2000)との書名で訳出され、医療界で大きく注目された。

IOMレポートでは、当時、米国医療において毎年9万8千人が医療過誤で死亡しているとショッキングな警告をしている。安全性確保のための米国医療界の取り組みは、他のハイリスク産業に比べて10年以上遅れており、今後、医療過誤などを減少させるための全国的調査専門機関の設置などが必要だと提言している。一方、今回のCUレポートでは、10年前のこのIOMレポートに言及しながら次のように述べている。

10年前、医療研究所(IOM)は、院内感染を含む回避可能な医療過誤によって、毎年9万8千人が無駄死にしていると宣言した。その後10年たってみて、果たして我々は本当にいくらかでも進歩したのかどうかはわからない。また、医療システムによって引き起こされる過誤を減らすための努力は、非常に少なく断片的である。

以上のように述べた上で、CUレポートは「回避できる医療過誤により、少なく見積もっても依然として毎年10万人が死亡しており、この10年間に100万人が死亡した」としている。この根拠として米国疾病対策予防センター(CDC)の推測データを取り上げているが、これによれば、米国では院内感染だけで毎年9万9千人が死亡しているとのことである。では、なぜ医療過誤に対する改善が進まないのかということだが、CUは次のような要因をあげている。

  1. 投薬ミスを回避するための周知システムを採用している病院はほとんどなく、FDA(食品医薬品局)がこれに介入することもめったにない。(〜略〜 電子処方箋・調剤システムは病院や医師に広く採用されてこなかった)
  2. かつてIOMが推奨したような、透明性に依拠した全国的説明責任システムが作られなかった。(ほとんどのケースで、個別病院についての情報は明らかにされず、エラー報告の不十分性が、システマティックな検証によって抑制されることもなかった。)
  3. 患者の安全性改善をコーディネイトし追跡調査する権限を持つ全国組織が設置されなかった。(「人は誰でも間違える」から10年たって、いまだに我々は、患者の安全性や医療過誤を減らすため進歩を包括的に追跡調査する組織を持っていない。それゆえに、我々は10年前の我々よりも、はたして一層より良い状態にあるかどうかを言うことはできない。米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)は患者安全性の進行具合をモニターしているというが、その努力は必要とされているものよりはるかに不足している。)
  4. 医師やその他の医療プロフェッショナルが優秀であると証明することは期待薄である。(これまで患者の安全性確保に関して、個人や購買者による断片的でばらばらな取り組みは行われてきたが、医師や看護師やその他の医療プロフェッショナルが患者の安全確保において、10年前の彼らより優秀であるとの証拠はないのである。)

上記4などかなり辛辣な指摘であるが、事実として、医療過誤による年間死亡者数が10年におよぶ長期間、何ら改善されていないで放置されてきたとすればこれは深刻な事態である。

数年前、たまたまNewYorkTimesで「疾患別死因ランキング」という記事を目にしたとき、なんとその6位に「医療過誤」がランクインされていることに驚いたことがある。医療過誤を「疾患」とすべきかどうか疑問だが、それにしても「回避できるエラー」によって毎年10万人、10年で100万人が死んでいるということをどう見るべきか。考え込んでしまう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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