「闘病記」を越えて(4): データベース「患者の叡智」へ向けて

 wikinomics

本日で、TOBYO収録闘病サイトは710疾患、15000サイトを越えた。これまで闘病ユニバースの規模をおよそ3万サイトと推定してきたが、これでTOBYOはその半数近くを可視化し、分類整理したことになる。だがまだあと半数を残しており、さらに今後多くの新闘病サイトが出現するだろう。こんなところで満足しているわけにはいかない。以前のエントリで現時点におけるTOBYOのプロジェクトミッションを、次のように述べてある。

闘病ユニバースに存在するすべての闘病体験を可視化し、分類整理し、アクセスできるようにすること。

このミッションを遂行するために、今後もサイト収集を進めていくが、来年には「収録サイト数3万件」に到達する予定だ。これで日本の近代医療はじまって以来初の、そしておそらく世界でも初の「患者3万人規模、分類整理され全文検索可能な闘病体験集合」が姿を現すことになる。これを仮に「データベース『患者の叡智』」と呼んでおく。このデータベースは、まず第一に闘病者のために利用してもらいたいが、その他、医療改革、学術研究、製品開発、政策立案、教育、マーケティングなど、およそ医療に関するすべての社会的ニーズに応えられる可能性を持っている。

このデータベースは、闘病者の自由意志と自発的活動によって創造された「闘病ユニバース」から出発したものであり、あくまでもパブリックスフィア(公共圏)に位置づけられるものだ。だからこのデータベースは公共財であり、誰でも、無料で、自由に利用できる。だからTOBYOの立ち位置も、あくまでもこのデータベースを「活用するためのツール」という「裏方」になるはずだ。

もともと、医療自身がパブリックスフィアに位置づけられるべきものだ。今日の遺伝子解析による罹患予測技術、AIDSやALSなど難病を克服する新薬や新治療法の開発など、これら先端的な知識・情報・技術も、特定の国家や企業が独占すべきものではなく、広く人類社会全体で共有すべきものであるはずだ。そして医療分野の研究開発自体も、今後は「ウィキノミクス」(ドン・タプスコット/アンソニー・D・ウィリアムズ、日経BP社)で触れられていたように、オープンソース方式やマスコラボレーション方式が採用されるだろう。さらに重要なことは、今後この過程へ、患者・消費者が直接参加していくことである。患者・消費者が自発的に医療に参加すること。この端緒として、闘病ユニバース、そしてデータベース「患者の叡智」があると、私たちは見ているのである。

以上のように、TOBYOプロジェクトをとっかかりとして、私たちは大きな構想を描きたいと考えている。それは端的に言って、「医療をパブリックスフィアに位置づけなおす」ことである。最初にまずやらなければならないのは、闘病ユニバースの全可視化と、それによる巨大データベース「患者の叡智」(仮)の実現である。そのためにも、従来のような狭い「闘病記」観を越えていく必要があるのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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