PatientsLikeMeがALS患者の「遺伝子検索エンジン」をリリース

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米国で、最もユニークで、最も成功している患者SNSと言われるPatientsLikeMeだが、今月、そのフラッグシップコミュニティである難病ALS(筋萎縮側索硬化症)コミュニティの設立三周年を記念し、新たに「遺伝子検索エンジン」サービスの開始が発表された。これはALS患者が、遺伝子レベルで「自分と似た患者」を探すことができるようなサービスであるとのこと。また、同コミュニティ患者の遺伝子情報を共有することにより、ALSの原因と結果の解明をはじめ、新しいALS治療法の開発などに活かすことができるとしている。

Google資本の23andMeをはじめ、一昨年あたりから消費者向け遺伝子解析サービスが多数立ち上がってきたが、いよいよこの流れが患者SNSと合流し始めたわけだ。23andMeもコミュニティを形成しようとしているのだが、PatientsLikeMeの場合、データ共有の目的が、たとえば「ALSの新治療法開発」などと非常に明確になっているだけに、説得力あるユーザーメリットを打ち出せるのではないか。このあたり、PatientsLikeMeの巧みなターゲット戦略には学ぶべきものが多い。

患者SNSをはじめ患者を対象とする医療情報サービスにおいて、よくターゲットを「患者一般」などとしてしまう過ちを犯すことがある。だが、たとえばALSの患者と双極性障害の患者とでは、求める情報も、求めるサービスもまったく異なるはずだ。つまり「ニーズ」がまったく違うのだ。PatientsLikeMeは、ALSやパーキンソン病など、あえて特定の稀少難病患者をターゲットとしたコミュニティを作ってきている。これらの患者は数が少ないこともあり、一般的にはコミュニティの「規模の経済性」を活かすことはできない。だが、その限られた特定疾患でナンバーワンコミュニティになり、その患者たちに特化したサービスを提供できれば、他の患者コミュニティに対する決定的なアドバンテージを持つことが可能になるのだ。

またPatientsLikeMeは、Facebookなど汎用SNSとも一線を画している。患者ニーズは汎用SNSが提供するような単なる人的交流サービスでは充たされず、「自分の病気を治したい」という一点に、きわめて強力に動機づけられたニーズであることを見抜いているからだ。

患者を対象とする医療情報サービスは「患者一般」ではなく、「特定の疾患の特定の患者」という、ターゲットとニーズの特定化とセグメントから出発すべきなのだ。逆に、一般化でき通底する患者ニーズとは、「この病気を治したい」という一点に収斂されるニーズだけなのである。患者ニーズとは、実はこのような両義的な性格を持っていると考えられるのだが、PatientsLikeMeはこのことをよく察知し知り尽くしている。素晴らしい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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