クラウドソーシングで医療改革

HealthReform

昨年12月、オバマ次期大統領(当時)の政権移行作業チームは、全米市民に米国医療制度改革について、それぞれの地域で「医療地域ディスカッション」を開催し討議に参加するよう呼びかけた。ホリデーシーズンにもかかわらず、この呼びかけに応え、9千人を上回る市民が「ディスカッション」に参加登録し、医療制度改革の討議という共通目的のもとに、家庭、事務所、コーヒーショップ、消防署、大学、地域センターなどに集まった。

全米各地のディスカッション風景

グループ討議のもようはそれぞれの会場ごとにグループレポートにまとめられ、また参加者にはアンケート調査が実施され、それらすべては大統領政権移行チームのウェブサイト「www.change.gov」に集約された。集まった医療改革討議グループレポートは3,276件、アンケート調査票は30,603票に達した。

これらのグループレポートとアンケート調査結果は、政権移行チームの医療政策班とボランティアらによって全データを集計、分析、要約され、このほどその調査結果レポートがHHS(米国保健社会福祉省)のウェブサイトHealthReform.GOVで公開された。今後、この調査結果レポートはHHSの医療改革政策の基礎となり、大統領官邸に作られた「医療改革フォーラム」への政策提言に盛り込まれる。

これら一連の「拡大版パブリックコメント」とでも言うべき活動は、草の根からの意見集約で医療改革ニーズを把握し、医療改革の政策立案に「クラウドソーシング」を活用しようとするものだ。調査レポートでは、全米各地の「ディスカッション」で語られた医療の現状と将来についての発言が、おどろくほど明確な特定の焦点へと収斂され、共通したビジョンを指し示していると指摘している。まさに「群衆の叡智」が発揮されたのである。しかも昨年12月以来、わずか三か月で、全米市民ニーズが明確な姿かたちをもった改革提言へとまとめ上げられたのである。このスピードと効率はすごい。

日本ではどうか。医療界、学会、消費者団体など各方面から「国民の代表」が省庁主催の審議会や検討会に集められ、役人の書いたシナリオどおりに議事が進行し、報告書が作成され、そしてそれを「根拠」とする政策が役人主導のもとに立案されるのである。このような「予定調和の閉塞」から、いったいどんな生産的な成果を期待できるというのか。

今後、政策立案にクラウドソーシングを活用するケースは増えると思われる。だが、もともと民主主義とは、クラウドソーシングの政治ではなかったのか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>