ビジョンなき「IT戦略」

政府は経済危機に対応した「IT新戦略」を準備しているようだ。その四つの重点分野のうち「医療現場のIT環境強化」というのがあるが、これは明らかにオバマ政権の医療IT強化政策を模倣したものだろう。その中身は次のように報じられている。

医療分野の目玉は、電子化した個人の健康情報を各地の医療機関で共有する『日本健康情報スーパーハイウェイ構想』(仮称)。医療機関同士をつなぐ光ファイバー網を新たに整備。画像診断情報などを瞬時にやりとりできるようにすることで、地域医療や救急医療の改善にもつなげる。(日経3月2日朝刊)

この『日本健康情報スーパーハイウェイ構想』とやらは、そのネーミングのひどさは置いておくとして、どうやらPHRをコアとする新しい医療情報ネットワークを指すらしい。たしかにPHRは、これからの医療情報システムのコアを担うことは間違いない。従来、電子カルテやEHRなど医療機関にフォーカスした情報システムばかりが注目されてきたのだが、医療機関から消費者個人へと優先順位を転倒したPHRの発想は、単に情報システムだけではなく、今後、医療全体が進むべき方向性を指し示していると考えられる。今後の医療は、ますますパーソナル化を強める方向に進化するであろう。

PHRはこれからの「パーソナル医療」のプラットフォームとなるはずだ。だが、まだ詳細が分からないとはいえ、この『日本健康情報スーパーハイウェイ構想』は何か医療進化ビジョンなしの大風呂敷のように見える。それは、つい最近の「電子私書箱構想」などをはじめ、消費者ニーズのなんの検証もない単なる技術的可能性だけに基づく打ち上げ花火を、これまで何度も見せられてきたからだろう。

かつて「医療IT化」と言えば、まず政府主導のグランドデザインなど施策があり、そこへ「完全無欠システム」を唱える御用学者が動員され、そしてITゼネコン等が蝟集するという構図があったが、今にして思えば、そこに取り立てて何か瞠目すべき成果があったとも思えない。あえて言うなら、日本医療をとりまく「土建屋業界的体質」など後進性を改めて認識されられたのみだ。下手をすれば、またあの悪評をきわめた住基ネットやe-TAXのようなものを、再び医療分野で作りかねないという危惧さえある。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


ビジョンなき「IT戦略」” への1件のコメント

  1. ニュースを教えてもらった当初は、国が1兆円くらいPHRに投じるのかと思いましたが、そうではなさそうですね。。。

    「医療IT」を重点項目とぶちあげる割には、IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会にも、IT戦略本部にも、日本の医療に造詣が深い方がいないように思います。
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kongo/digital/member.html

    もっとも医療ITの専門家を検討に加えたとしても、三宅さんのおっしゃる「御用学者」であった場合は、大差ないのかも知れませんが。「スーパーハイウェイ」という名前だけでも、うまく行きそうには思えません。

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