書評:「ネットで暴走する医師たち」鳥集徹、WAVE出版

本書はいろんな意味で「話題の書」になっているらしい。当方は以前、ネット医師とか医師ブロガーと称される方々のブログをかなり集中して読んでいた時期がある。現状医療制度に対する、医師たちの本音や考え方をブログから把握したいと考えていたからだ。ところがいつのまにやら、継続して読む医師ブログはなくなってしまった。別に積極的な理由はないが、これら医師ブログは広い読者層を想定しているようには見えず、狭い医師社会内部の「内輪話」に終始しているように感じたからだ。また、どうやらマスコミを敵視する点で、これらの医師ブログは共通しているようだが、たとえば頻繁に新聞記事を引用し、その一言一句を重箱の隅をほじくるような執拗さであげつらうその”stickiness”に辟易したためでもある。

米国やヨーロッパの医師ブログは数多く読むが、日本と違うのはそれらすべてが実名で書かれている点だ。日本では実名の医師ブログは圧倒的に少ない。海外では医師のみならず、プロフェッショナルな専門職を持つ人ほど実名でブログを書いている。匿名で書くのは自由だが、匿名ゆえの気楽さは、時として自律性を欠いた言論へと暴走することもあるだろう。本書のテーマはそこにある。

本書で扱っている「暴走」はブログのみならず、ウェブ上の医師コミュニティ内部の掲示板、2チャンネルの医療スレッド、さらにはWikipediaにまでおよぶ。もちろんこれら「暴走」の主体がすべて医師であるとは断定しがたい。

だが自分の経験を振り返ると、「医療崩壊」や「焼け野原」などと声高かつ執拗に繰り返す一部の医師ブログを何度も見ているうちに、次第に医師ブログへの関心は失せ、読む意欲は減退していった。そしてやがて医師に対する敬意の念よりも、これら医師ブログへの不信感の方が高まるのを感じて医師ブログから遠ざかった。

どのような意見を発表するのも自由だろう。だが声高に言えば言うほど、周りから敬遠され胡乱な目でみられることもある。それどころか、かえって不信さえ招くこともある。何よりも、自ら信ずるところあって他者を批判し指弾するのなら、匿名ではなく実名で発言しなければならないだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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  1. ピンバック: 夢のもののふ

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