「自律、分散、協調」と「闘病ネットワーク圏」

PublicSphere昨日、東京では桜が開花し、今日も朝から暖かい陽光がさんさんと輝いている。こんな日を事務所にこもって過ごすのはもったいない。今日は早々に仕事を終え、新宿御苑の桜を見に出た。花の咲き具合はこれからだが、春風に吹かれながら散策するのは気持ちがよい。

さて、TOBYOの収録闘病記件数が2,500を超えた。今日(3月23日)の時点で、収録件数一位は「乳がん」で338を数える。続いて「C型肝炎」、「リウマチ」、「クローン病」が100を超えているが、逆にまだ収録件数が10に満たないものも多い。「病名」から見ると、TOBYOに収録された病名数は250に達するが、まだ闘病記件数が「1」にとどまる病名が112もある。TOBYOに集まった闘病記群の現状は、まさに「乳がん」をヘッドにしたロングテールということになる。

これらの数字を見ながら、「まだまだ、これからだ」という感を強く持った。とにかく、まず情報量を確保しなければ、ユーザーに満足してもらうことはできないのだ。ユーザーの基本ニーズを考えると、「自分と同じ病気で、自分と似た境遇にある人の闘病体験を、数多く知りたい」ということになるはずだ。つまりユーザーが求めているのは、まず第一に情報量なのだ。このことはまた、数多くの闘病記に記されてもいる。医師から病名を告知され、必死になってネット上の闘病体験情報を探した時の苦労が、異口同音に多くの闘病記に書かれている。この苦労を軽減し、TOBYOで闘病体験が簡単に見つけてもらえるようにしなければならない。

だから2,500では、まだまだユーザーに満足してもらえる水準ではないと考えている。収録病名数も250では、まだまだ少ない。そしてテール部分の問題、つまり病名あたり闘病記件数「1」が多いという現状も、何とか改善していかなければならない。これでは「同じ病気」という条件は充たすことができても、「似た境遇」、つまり性・年齢別でユーザーと同じ条件の闘病体験を充分に提供することができない。これらを解決する唯一の方法は、「収録母集団の量的確保」につきる。

TOBYOは闘病コンテンツを持たない。今後も持つつもりはない。闘病記はユーザーの好きなところで作成してもらえばよい。ウェブ闘病記はネット上に分散して存在しているが、「分散している」からといって何も不都合なことはない。「集中」よりも「分散」の方が、よりネットワーク的なあり方なのだ。かつて10年前に、慶応の村井純氏がインターネットの基本原理として提起した、「自律、分散、協調」というキイワードを思い出してもらえばよい。

闘病者が制作する一つ一つの闘病サイトは、まず闘病者の自発的行動原理に基づいて「自律」している。次に闘病サイトは、「集中」するのではなく、ほどよく「分散」して存在している。「分散」はプレイヤーの多様性と自由度を担保する。最後に、闘病サイトは相互に「コメント、TB、リンク」などを介して、緩い「協調」関係を創り出している。しかもこれは意図して作られた関係ではなく、あくまでも自然発生的に創発的(Emergent)に自生したものである。

われわれがTOBYOの最初のアイデアを開発したとき、既に上記のような「自律、分散、協調」の原理に合致する「闘病ネットワーク圏」とも呼ぶべきものが、ウェブ上に存在していたのだ。この「闘病ネットワーク圏」は、誰に対しても開かれ、無料で誰が利用しても良いという意味で「Public Sphere」である。そして、この「闘病ネットワーク圏」の豊穣で多様なあり方に着目したのがTOBYOというサービスであると、われわれは考えているのだ。

したがってTOBYOは、「コンテンツ囲い込み思想」に代表されるような、いかなる「1.0」的な世界観とも無縁である。第一、われわれの目の前に存在する「闘病ネットワーク圏」自体が、「情報やコンテンツを囲い込む古い世界観」をもともと超越しているではないか。

われわれの初期のスローガンは「闘病体験の共有」であるが、実はわれわれよりもずっと先行して、闘病者達がこのことを自発的に実践していたのだ。インターネット黎明期から、かれら闘病者達によってネット上に「闘病ネットワーク圏」が、誰に頼まれたのでもなく自発的に作られて来たのであり、われわれは後からそのことにようやく気づいたに過ぎないのだ。

以上のように、TOBYOは「闘病ネットワーク圏」を前提にして開発されたサービスである。だが何よりもまず、「便利なツール」として、たくさんの闘病者に使っていただきたい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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