予防医療は医療コスト節減に寄与するか?


まず、アイスランド本拠のゲノム解析サービス「deCODEme」のプロモーションビデオがリリースされたので、とりあえずアップしておこう。以前のエントリーにも記したように、ゲノム解析サービスは単に個人の好奇心を満たす段階から、将来の自分の病気リスクを予測するステージへ移行しつつあるが、まだその予測精度などの限界を指摘されてもいる。だが、サービスのコストダウンと並行して、今後、精度や予測範囲も改善されていくことは間違いないだろう。

また一方では、この春から日本で始められる「特定検診、特定保健指導」のように、「予防医療によって医療コストをセーブしよう」との試みも活発化してきている。すでに過熱気味の米国大統領選挙運動においても、各党有力候補は皆申し合わせたように「予防医療」を医療政策の柱としている。だが、「予防医療が本当に医療コスト削減につながるかどうか」については、本当は確たるエビデンスはないと言われている。しかし、ロジックが一般受けしやすく、しかもわかりやすいため、きちんとした検証抜きで「予防医療=医療コスト削減」という等式が流布してしまった。

これらの傾向に警鐘を鳴らす論文「Does Preventive Care Save Money? Health Economics and the Presidential Candidates」が、先週14日「NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」誌に掲載された。論文の執筆者たちは、599の関係論文を精査し、QALYs(生活の質で調整した生存年数)に関する予防医療のコスト効果率を調べた。その結果、明らかにコスト効果が認められたのは次のようなものである。

  • 幼児に対するインフルエンザB型ワクチン接種
  • 60-64才男性に対する結腸鏡検査
  • アルツハイマー症の家族検査
  • 聴覚障害児への蝸牛移植

だが逆に医療コストを高め、患者の健康まで損ねる予防医療まであることも判明し、予防医療の評価は「功罪相半す」という結果となったようである。日本では「メタボ」が流行語みたいになってしまったが、これを予防すれば実際に医療コストが削減されるというエビデンスは、本当にあるのだろうか?。「検査漬け」によるコスト高騰を考えると、将来、deCODEmeのようなゲノム解析によるリスク管理のほうが有力となる可能性もある。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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