グローバル化する医師SNS

DocCheck

米国の医師SNSが続々と隣国カナダへの進出を準備している。SermoやRelaxDocなどは、これまで会員資格として米国人医師であることしか認めていなかったが、今後、カナダ人医師も参加できるように会員資格条件を緩和する。

「何千というわけではないが、何百人かのカナダ人医師から問い合わせがあったのです。ご想像通りに、彼らはここに入ることを本当に切望しているのです。私たちは今年後半には、カナダの医師たちへ提案発表できる用意をしています。会員登録の方法は、これまでと違ったやり方になるかもしれません。間違いなく医師だけが参加できるようにチェックする仕組みを立ち上げねばなりません」とSermoのクレア・スピナ・ラッセル広報担当は述べている。

一方、医師のオンライン・コミュニティとしてはおそらく世界最大であるドイツの「DocCheck」が、このほど医師SNSサービス「DockCheck Faces」をローンチした。「DocCheck」はドイツなどEU域内を中心に約50万人の医師会員を擁しており、毎月8000人づつ会員は増加している。従来提供していたサービスは次のようなもの。

  • Newsletter: 医学関連ニュースレター提供
  • DC Headlines: 医療関連RSSニュース配信
  • Litbot: 文献検索サービス
  • Flexikon: オープン医学用語集
  • medicalpicture: 医学関連イメージ・ライブラリー

これに今回医師SNS「DockCheck Faces」が加えられたのだが、かなり以前からWikiに似た集合知サービスである「Flexikon」提供に取り組んでいたことも注目される。また、この医師コミュニティのビジネスモデルは次のようなものである。

  • 約1700社の製薬・医療機器企業との提携
  • マーケティング調査
  • eコマース・プラットフォーム
  • CRM

最後の「CRM」が具体的に何を意味するのかイマイチわからないのだが、概ね、医師コミュニティの集合的な専門知識パワーを、医療サプライヤー側のマーケティング・ニーズに巧みに結びつけ成功していると思われる。今回の医師SNSも、このようなビジネスモデルと会員サービスの双方を強化するために、新たに加えられたのであろう。

そして、その上にグローバル戦略上の必要もあったものと思われる。「DockCheck」会員はドイツ人医師が約半分を占め、今後会員拡大する上で、ドイツ以外の地域から医師を獲得する必要に迫られている。そのため、サイトを多国語対応化しつつあるが、医師SNSによる各国での集客力強化も狙っており、ますますグローバル化を強めている。

「われわれの目標は、医療プロフェッショナルのグローバル・コミュニティを樹立することである。そのことによって医師同士の国際交流を著しく強化できるのだ。」(「DockCheck」のCEOであるフランク・アントワープ博士談)

「DockCheck」はEUのみならず米国やイスラエルにも進出しようとしているのだが、そのうち米国のSermoなどと競合するのは時間の問題であろう。また、他方では昨日のエントリーに見るように、「PHRのグローバル化」という現象も始まっている。なおかつ、近年ますます拡大しつつある「医療ツーリズム」市場の動向や、「医師調達の国際化」なども考え合わせると、どうやら今後、医療を一国単位で「国民医療」として捉え論じることの限界が明らかになって行くような気がする。

先進国の医療制度はどの国もうまくいっていない。一国単位で「国民医療」を維持できないのなら、今後は国際的な相互協力体制によって、国際的な医療資源配分の最適化を行い支えあうような時代になるのかもしれない。もちろんインターネットはこれらの動きを確実に加速するはずだ。

<参考>
eHealthNews.EU, “DocCheck? Establishes Worldwide Community of Healthcare Professionals”, 06 February 2008

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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