オーストラリアからPHR新登場: miVitals

miVitalsオーストラリアのスタートアップ企業からPHR(Personal Health Record)のニューフェースがローンチされた。「miVitals」は「健康とライフスタイルを記録するためのセキュアなオンライン・ストレージ・システム」と自らを定義している。「たいていの人は、自分の健康管理に従事するおよそ5人のプロフェッショナルを持っている。それはかかりつけ医、歯科医、眼科医、専門医、薬剤師などである」と説くmiVitalsは、生活者とこれら複数の医療プロフェッショナルが個人健康情報を共有するオンライン・ストレージになることを目指している。最初これら説明を読むと、「PHR」という言葉が全く出てこないので、今までにない新しいサービスであるかのように錯覚するが、その中身がやはりPHRであることに違いはない。

たしかにデザインやUIを見ると、PHRをはじめ他の医療関連サイトとはかなり趣の異なるユニークな「ルック&フィール」をしているのだが、提供している機能を一つずつ検討してみると特に際立った差異はない。これに関してmiVitalsは、彼らのミッション・ステートメントで次のように述べている。

われわれは、すべての人に受け容れられる存在であることを目指している

miVitalsは、すべての民族そして社会経済的バックグラウンドをもった人々に利用され、すべての年代の人々に役立つようにデザインされている。このことに専心するために、miVitalsは健康と美容についての、お決まりでもっともらしい広告イメージを使用していない。

なるほど、以上のようなデザインポリシーがあって作られたサイトデザインやUIであることは分かった。また、シンプルで斬新なデザインには好感が持てる。デザイン計画まで意を致すようなベンチャー企業はなかなか無いことを思えば、これはこれで立派である。従来のPHRにはない新しい差異を切り出したい、との強い思いは伝わってくる。また、「すべての民族そして社会経済的バックグラウンド」とあるように、いわば「グローバルPHR」というものを志向してもいる。ユーザー登録ページでは、欧米は無論のこととして、日本をはじめアジア・アフリカ諸国まで国籍選択できるようになっている。しかしこれは、オーストラリアのスタートアップ企業という事情もあるに違いない。イスラエルやイタリアのHealth2.0企業でもそうだが、自国だけのサービスでは市場が限定されてしまうからだ。

だが、だからと言ってこのmiVitalsが全く新しいPHRになり得ているかと言えば、それはまた別の問題であろう。PHRにつきまとう以下のような主たるボトルネックは、依然として解決されないままである。

  • ユーザーがデータ入力する手間、モチベーション
  • ユーザーが長期継続管理する手間、モチベーション
  • 医療機関、医師、薬局等との連携

「PHRの価値」というものを考えてみると、誰しも「理屈」では理解できる。「頭」では理解できるのだ。だが、いざ実行する段になると誰しも腰が引けてしまう。すなわちホンネでは「億劫」なのだ。「理屈」と「本音(怠惰)」との間に、これほど深刻なギャップが存在するようなサービスは他にないかも知れない。たしかにインターネットは、いつでも、どこでも、PHRに統合された個人健康情報を利用可能にした。だが、これも「理屈」上の話である。入力や継続管理など、実際の「やっかいな手間」までは自動化してくれていないのだ。

このように考えてくると、何か、プラス・アルファの強力な動機形成要因みたいなものが必要になっていると思わざるを得ない。それは何なのか?。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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