変わる患者SNSの役割

trusera

これまで、患者SNSの動向や問題点について何度か取り上げてきたが、昨秋イスラエルはテルアビブからローンチしたiMedixが、先日開催された「2007 Crunchies」で最優秀最新スタートアップ賞を受賞した。まずは、めでたい!。おめでとう、iMedix!。「2007 Crunchies」は、2007年に最も活躍した2.0系サービスや有望なスタートアップ企業を顕彰するために開催されたコンテストである。今回、iMedixは医療保健部門では唯一の受賞となった。

授賞理由として、「Crunchies」主催者の一員でもあるブログ「TechCrunch」は、次のように述べている。

iMedixは検索機能とSNSを統合することで、オンラインの健康情報の利用法を変革する可能性をもたらしている。ユーザーは健康上の話題に関して自分の体験やオススメのリンクなどの情報を交換して助け合うことができる

以前のエントリーでiMedixの紹介はしてあるが、結局「コミュニティ・パワードな検索エンジン」というところがこのiMedixのユニークなところであると指摘しておいた。前エントリーでは、そこから「ソーシャルサーチ」の問題も論考したのだが、端的に言えば「Mahalo」などに代表されるような方向へ今後進化して行けば面白いと思ったのだ。だがその後のソーシャルサーチ周辺の動きを見ると、単に「検索エンジン+SNS」とか「コミュニティによって検索エンジンをパワーアップする」とか言ってみただけでは、どうやら済まなくなって来ているような気がする。

そこには、特に「患者SNS」をどう見るかという問題があるのだ。つまり「SNS」という名称を引っ張っている限りは、「お付き合い、友人探し、交流」など、いわゆる「古典的コミュニティ機能」観から一歩も出ないのだが、iMedixなどにビルトインされているSNSなどは、従来の「レガシーSNS」からかなり違う方向へ進化して行くのではないかと思われる。それはまだ明確な姿かたちを見せてはいないのだが、あえて言えうと、おそらく「目的としてのSNS」から「手段としてのSNS」への転換というベクトルを持っているはずだ。

「目的としてのSNS」はミクシなど汎用SNSに代表されるように、従来型コミュニティ参加を通じて人的交流を自己目的的に実現するものである。対して「手段としてのSNS」は、人的交流を手段化して、「他の目的」を実現するものである。これを闘病者や患者という利用者属性に即して展開してみると、「目的としてのSNS」は闘病者の相互経験交流をはじめ広義の人的交流自体を目指すものであり、「手段としてのSNS」は人的交流をいわば手段化して「自己の闘病活動に必要な実践的情報(闘病情報)を入手する」ことを目指すものである。つまり最終目的が「人的交流」自体か、それともそれを通じた「闘病情報入手」かという差異があるのだ。「人的交流を手段化する」と言うと、なんだかそこに功利的な姿勢が感じられてしまうのだが、そうではなく、これはユーザー・ニーズのプライオリティをどう解釈しどう読むかという問題なのだ。

さて昨年末、シアトルから新しい患者SNS「Trusera」がローンチされた。これは、以前当ブログ「患者体験共有へのアプローチ」 でも先行紹介してあった「PeerWisdom」が前身であり、今回名称変更してようやく姿を現したものである。前エントリーではこの企業がamazon出身者が起こしたベンチャーで、すでに200万ドルの資金調達にも成功しており、「一般的な医療情報を超えること。それから似たような病気体験を持つ人々を結びつけること」を開発目標としていると紹介している。

さらに、昨年12月18日ローンチ時のプレス・リリースでは、次のように「Trusera」の提供するサービスを改めて説明している。

「第一に、医療と健康の分野で経験を持つ人々のグループを招待し、これらの人々に経験の共有と知人の招待を奨励する。第二に、ユーザーが生成し受け取った情報をパーソナライズするためのツールをコミュニティに提供し、フィルタリング、プライバシー・コントロールなどを通じて彼らが自分の経験情報をコントロールできるようにする。

(中略)
Truseraは、人々がインターネットで医療情報を探す方法を変える。」

「Trusera」はまず通常の「招待制患者SNS」でありながら、「人々がインターネットで医療情報を探す方法を変える」ことを目指している。このことは、「招待制患者SNS」が本来の目的ではなく、それを手段として最終的には「ユーザーが必要とする医療情報探索」を目的としていることを表明するものである。

さて、以上これまで見てきたことをまとめると、次のようになるのではないだろうか。

今まで闘病者は、汎用検索エンジン、医療ポータル、病院サイトそして医療保険サイトなどを利用し、またそれらを経路として、自分の闘病に必要な実践的情報にたどり着こうとした。そしてその情報探索行動には、多くの時間と労力を費やさなければならなかった。だがソーシャルサーチという新しい方法論が生まれ、みんなで協力すれば情報探索活動は効率化することがわかった。だが、この際の「みんな」をプールする容器(=SNS)はこれまでとは性質が変わってしまった。もはや「容器」の中の「交流」自体が目的ではなく、その容器は求める実践的情報に効率的にたどり着くための「手段」になったのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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