患者の叡智: Wisdom of Patients

公募選出の患者家族委員4人が、日本小児アレルギー学会の専門医と協力して作った「家族と専門医が一緒に作った小児ぜんそくハンドブック2008」(協和企画)が出版された。医学的な内容は専門医が監修し助言したようだが、ハンドブックの構成、執筆などはすべて患者委員が担当した。これは画期的なことである。

診断・治療法など専門知識に偏りがちな医師向けの指針と異なり、ぜんそくの症状を自らコントロールし、安心して暮らすための生活の知恵が数多く紹介されているのが特徴。ぜんそく発作が起きた場合の対応では、体温を測る、水を飲ませる、など効果的な手当の手順を紹介したほか、救急車を呼ぶべき発作と、自宅で様子を見てよい発作の見分け方も記載した。

(中略)

患者委員を務めたアレルギー患者団体「アラジーポット」の栗山真理子専務理事は『患者はただの素人ではなく、病気と向き合う知識と経験を持つ専門家。患者が何を知りたいかは患者自身が一番知っている』と強調。 (12月13日日経夕刊)

このブログでも再三指摘してきたが、これからは患者側の実践的な知識や体験をどう医療に活用するかが重要になるだろう。従来、これらは「不確かな情報」と見なされ、正当に評価されず、また十分に効率よく活用するツールもなかった。だがこのハンドブックなどをきっかけとして、今後、さまざまなかたちで「患者の叡智」を医療に活用する動きが出てくると思われる。

インターネットで医療情報を配信するサービスも、従来のように医療者ソースの情報だけではなく、今後は患者ソースの「患者の叡智」を効率よく活用し、より消費者ニーズにフィットするようなサービスが多く出現するだろう。だが、これら患者ソースの知識や体験の価値を、単なる「癒し」や「感動」など情緒的側面に限定し、実践的な価値を過小評価する向きもいまだにある。今回のパンフレットが注目されるのは、消費者や患者が知りたい実践的な医療情報を患者家族が提供している点である。

「患者の叡智」とは、実際に役立つ、実践的な知識であり知恵である。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


患者の叡智: Wisdom of Patients” への1件のコメント

  1. こういうのが、先日紹介のあった「今日の近代西洋医学も、この時期に当時の大学を根城とするスコラ哲学から脱却し、床屋医療者による実践的医療技術として一歩を踏み出したのである。」ということと、つながるように感じました。

ma にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>