医療レーティングサービスの現状

sustainable3

医療評価、すなわち病院が提供する医療サービスの品質評価や医師の評価について、これまでさまざまな調査手法やデータ提供方法が模索されてきた。これらは「レーティングサービス」と総称されるが、特にネットで医療評価データを提供するサービスが米国では90年代半ばから多数登場している。この分野では、CMSなど公的機関のデータを統計処理して提供するHealthGradesなどをはじめ、患者満足度調査に基づくものや、最近では2.0的手法を用いたクチコミでのレーティングサービスなども多数登場してきている。

これらレーティングサービスは、消費者が病院や医師を選択する際の比較指標として、これまで有用で価値があるとされてきた。だが、Kaiser Family Foundationが先月発表した調査結果によると、医療選択の意思決定時に、これらレーティングサービスを利用している米国消費者はわずか15%以下にとどまることがわかった。これは2004年、2006年に実施された同調査の20%台という数字より下落しており、レーティングサービス業の成長がにわかに疑問視されはじめている。この調査レポートは「ほとんどの米国消費者は、医療品質評価のレーティングサービスを見たことも使ったこともない」とまで結論付けている。

同様に昨年CHCF(California HealthCare Foundation)が実施したカリフォルニア州の医療評価レーティング利用実態調査によると、消費者は病気の症状や治療方法に関してはネット医療情報サービスを利用しているのだが、病院選択時にレーティングサービスを利用する消費者はほとんどいないという結果になっている。消費者の30%がレーティングサービスの存在を知っているのだが、実際に利用しているのはわずか1%に過ぎないとしている。

実に意外な結果となっているのだが、たしかにHealthGradesなどのレーティングデータなどを見ているとかなり専門的な統計処理をしており、一般の消費者にはデータの読解が難しいのかもしれない。消費者の医療選択に役立てるというよりも、むしろ医療業界内部の格付け指標としての機能のほうが重視されていると言える。病院としてはレーティングで高い評価を獲得できれば、医療保険と有利な契約を結べたり、資金調達が容易になったり、また有能なスタッフを集めることができるからである。このようなビジネス面における格付け指標としての位置づけが強まる反面、消費者に利用してもらう努力を怠ってきたために、以上のような厳しい調査結果になっているとも言えるだろう。

医療の透明化をはかり、消費者に医療選択のための比較指標を提供するには、レーティングサービスがやはり必要だと思える。だがレーティング各社は、消費者にもっと利用してもらうための努力工夫が必要になっている。ところでこれは米国の話だが、日本ではまだこの分野は圧倒的に貧弱である。特にHealthGradesのような、オーソドックスなデータ処理&提供ができるサービスが一社もないのが痛い。これは米国ではCMSなど公的機関がアウトカムデータを公開しているのに、日本では医療評価機構でさえアウトカムデータを把握していないという問題がある。最近になって少数の医療機関が「治療成績」などアウトカムデータを公開し始めているが、データの標準化がなされておらず相互比較できない。クチコミ評価の方はいくつか登場してきてはいるが、ユーザーの医療機関に対するマイナス評価を除外するなど、データ提供の中立性に問題がある。

実は、当方、かつて医療評価サービスを立ち上げる計画だったのだが、その当時と比べてみても日本の状況はほとんど何も変わっていない。なんとかこの状況を変えたいものである。そう考えるとTOBYOは1万人の患者体験を全文検索できる。この能力を使って、全国の病院の医療評価指標を出力できるかもしれない。

Source:iHealth Beat, Tuesday, December 02, 2008

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>