ウィキ型思考の医療人

wikipedia

世の中には予想を裏切る意外なコトが多い。だから面白いのだ。もちろんその「意外さ」には、それに接してがっかり落胆するような意外さもあれば、「なかなかやるじゃん」と元気が出る意外さもある。たまたま偶然、「少数の専門家と多数の非専門家」と題された講演抄録を見て「意外!」の念に打たれたのだが、この場合はポジティブな意味においてである。

この講演は、先ごろ実施された「JIMAインターネット医療フォーラム2008」における国際医療福祉大学の開原成允教授によるものである。

実は、私は「ウィキ型思考」の人間である。なぜ、そうなのか自分でもよくわからないが、敢えて理由を考えると、人間は誰でも好きなことをやってそれを完成させたいという気持ちを生まれながらにして持っていると思うからである。難しく言えば、「自己実現」と言ってもよい。3歳の子供が頼まれなくても積み木を積んで、それができると喜ぶのと同じである。そして積み木が完成すると人に見てもらいたくて周辺の人を呼んでくる。この気持ちは純粋で信用でき、大人になっても決してなくなってはいない。この根源的な人間の気持ちの上にできたシステムの方が人工的な秩序よりははるかに信用できると私は思う。
(「少数の専門家と多数の非専門家」抄録、 国際医療福祉大学 開原成允教授)

まず、ここで言われているのは「性善説」の積極的な肯定である。そして誰に頼まれもしないのに、自発的な原理によって自然発生的に生まれてくるものの方が、「人工的な秩序よりははるかに信用できる」のである。これはTOBYOやHealth2.0の原理と一致する。

また、専門家よりも不特定多数の方が信用できるとも私は思っている。「不特定多数」とは非専門家の集まりだと思いがちであるが、決してそんなことはない。不特定多数の中にはさまざまな分野の専門家もいて、例えば「ウィキ百科辞典」を見ている。間違っていればなおしたくもなる。これは私自身もそうだからたぶん他のウィキ思考型の人も同じであろう。そうなると、少数の専門家よりもより正確なものができるのも当然という気がする。それに専門家は、ある限定された分野については豊富な知識は持っているかもしれないが、豊富な知識と健全な判断は同じではない。健全な判断には広い知識も必要であるからである。(同上)

「不特定多数の中にはさまざまな分野の専門家もいる」のであり、それら多数の非専門家の方が、「少数の専門家よりもより正確なものができるのも当然」であるのだ。たとえば医療界の「専門家」だけでことを進めようとするよりも、もっと広く、患者をはじめ非専門家が多数参加するような医療、つまり「参加型医療」の方がより消費者ニーズに即した医療を実現できるだろう。

何か当方が言いたいことを、全部、開原先生が言ってくれているような気がした。Health2.0の原理を直截かつ平明に語りつくしておられる。まさかこんな柔軟な発想を持った人が、医療界のアカデミズムに存在するとは・・・という嬉しい驚きであり、また「意外さ」でもあった。できれば直にこの講演を聞きたかった。それが残念である。

この講演会を主催したのは日本インターネット医療協議会である。実はこれも「意外さ」の大きな要因である。

事務局長の三谷君へ。この開原先生の講演を企画実施されたことに対し、心より素直な敬意を表します。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


ウィキ型思考の医療人” への1件のコメント

  1.  TOBYOに膀胱がん(尿膜管がん)で登録しているガンファイターと申します。

     ウィキペディアの基本方針とTOBYOの目指すところが重なるところが鮮明になり、非専門家が多数参加するような参加型医療」の重要性が良く分かりました。

     私は、医療従事者ではない膀胱がん(尿膜管がん)患者ですが、2008年11月9日に初めてウィキペディアの尿膜管癌の記事を作成しました。

     その経緯を次のとおり書きます。

     尿膜管がんは、尿膜管より発生する癌腫であり、全膀胱腫瘍の0.17~0.34%という極めて稀な腫瘍です。

     2007年4月に尿膜管がんの診断を受けて、インターネットで最初にフリー百科事典の日本語版ウィキペディアの尿膜管がんを調べました。泌尿器科学の膀胱癌のところにある尿膜管癌をクリックすると、「尿膜管癌を編集中(略)ウィキペディアには現在この名前の項目はありません。」という表示がされていました。また、日本語版ウィキペディアの膀胱癌の記事には、尿膜管がんのことは全く書いてありません。

     1年半以上たった2008年11月でも、日本語版フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の尿膜管癌は編集中の表示のままでした。
     英語版のウィキペディアを調べると、尿膜管がんの英語のUrachal cancerの説明がありました(http://en.wikipedia.org/wiki/Urachal_cancer)。

     そこで、2008年11月9日にウィキペディア間の翻訳によって日本語版のウィキペディアの尿膜管癌の記事(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BF%E8%86%9C%E7%AE%A1%E7%99%8C)を作成しました。

     たったこれだけのことですが、ウィキペディアの記事作成は、パソコンやインターネットの素人にとっては難しいと思います。
     この点、TOBYOへの闘病記の登録は簡単です。希少な病気に対しては、どうも医療の専門家の優先順位が低く、ウィキペディアでさえも有意な情報は少ないです。

     TOBYOに多くの患者の闘病記が集まり、希少な病気の患者のために病気や治療の選択肢の情報が容易に得られるようなプラットフォームになることを期待します。

ganfighter にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>