患者コミュニティと治験コミュニティを繋ぐマーケットプレース: PrivateAccess

privateaccess

かつて医療情報と言えば、すぐに「プライバシー&セキュリティ」というクリシェ(決まり文句)を芸もなく繰り返す時代があった。人々がいた。あるいは「質の高い医療情報」などと、スコラ論議みたいな呪文を唱える輩もいた。もちろんプライバシーもセキュリティも大切だが、もしもこれらを過剰に重視するあまり情報が動かなくなってしまえば、かえって適切な医療を受けられなくなることになるだろう。円滑にフローし簡単にアクセスできなければ、どのような医療情報もその価値を発揮することはない。

よく考えてみると、プライバシーとアクセシビリティは相互に矛盾する。一方を立てると、他方は立ちがたい。たとえば稀少難病患者が新しい治療方法を求めて、治験に参加したいと考えているケースを想起してみよう。この場合、患者は求める治験に参加するために、自分の症状を詳しく治験の実行者に伝えなければならない。これはプライバシー情報であるが、もしも患者がプライバシーを重視するあまり自分の症状を伝えることがなければ、治験者は患者情報にアクセスできず、患者は治験参加の機会を逃すことになる。また、従来の患者-治験者の間を取り持つのはほとんどがメールであり、これも厳密にはセキュアな伝達手段と言えないかもしれない。

PrivateAccessは、このような「矛盾」に着目した新しい医療情報サービスである。先日開催されたHealth2.0コンファレンスで発表され、一躍脚光を浴びている。要約すると、「治験における患者プライバシーと治験者アクセシビリティの両立をはかる環境」がこのサービスのコンセプトであり、システムは次の四つのパートからなる。

  1. リクルートソース
  2. 治験検索
  3. 記録エージェント
  4. プライバシーレイヤー

1は医学研究機関や仲介者などが治験の参加患者をリクルートするためのツール。2は患者が、進行中あるいは近い将来に予定された自分に合う治験を探すためのツール。3は患者の医療情報を集約し、患者側は情報アクセス権を各治験者にアサインし、治験者側は患者に必要な医療情報をリクエストする、言わば情報交換の場である。そして、以上3つのサービスをセキュアな環境で運用するための4がある。

このような機能配置によって「プライバシーとアクセシビリティの両立」が可能となるとされているが、当方の目には、それよりもむしろ上記3「記録エージェント」を中心とした「治験のマーケットプレース」ということがこのサービスの肝であるような気がする。つまり今まで相互に距離があった患者コミュニティと治験者コミュニティの間に、効率的な「市場」をつくろうというのがこのPrivateAccessの真の狙いではないかと思うのだ。現にPrivateAccessは患者コミュニティとして、Genetic Allianceとパートナーシップ契約を結んでいる。Genetic Allianceは650疾患の患者支援団体連合であり、それぞれの団体メンバーに治験機会を与えるメリットに魅力を感じているわけだ。

毎年700万人の患者の参加が米国の治験では必要になっている。だがそのリクルートに伴う時間と費用は莫大なコストになっており、製薬企業、研究機関などにとって頭痛の種であった。その意味で、治験に伴う新しい医療情報フローチャネルであり「情報の市場」であるPrivateAccessは、Health2.0コンファレンスでも製薬メーカーなどから大きな注目を集めたといわれる。

だが他方、競合もあるだろう。同じ治験市場に着目している患者SNS「PatientsLikeMe」は、最も手ごわい競争相手になるのではないか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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