墨東奇譚

先週、妊婦が複数の病院で受け入れを断られ死亡するという痛ましい事件があった。一旦は搬送を断り、結局受け入れた地域の総合周産期母子医療センターである都立墨東病院に対する舛添厚労相の批判と、それに対する石原都知事の反論などもあり、国と自治体の責任の押し付け合いという様相さえ見られた。

数年前に起きた奈良の同様の事件以来、この間、一切何も改善されず、ある意味で起こるべくして起きた悲劇と言えよう。この原因が深刻な産婦人科医の不足にあることは今さら言うまでもない。

ところで今日になって、各都道府県で構築されているはずの各病院「空きベッド情報」システムの大半が稼働していないという実態が明らかになった。急を要する患者の搬送先を調べるとき、リアルタイムで迅速に空きベッド情報を把握するためのシステムのはずだが、実際には大半の空きベッド状況がリアルタイムで更新されていない。今回の事件でも救急隊員は電話で各病院に問い合わせたらしい。なぜ更新されていないかと言えば、情報システムを利用するよりも「電話の方が早い」という現場の声があるからだと言われる。

このことは実は前回の奈良のケースでも指摘されていた。前回もシステムは活用されず、電話で一軒一軒搬送先を探すという非能率的な現場行動が、一刻を争う事態にまったく対応できなかったのである。これがシステム自体の使いにくさなどの問題なのか、それとも使う側のヒューマンファクターに起因するのか定かではないが、おそらく両方が問題なのだと直感される。

墨東といえば「墨東綺譚」である。言うまでもなく永井荷風の作品だが、この場合「綺譚」は造語で「美しいはなし」くらいの意味である。今回の墨東病院事件は、どう考えても「奇怪な、合点の行かないはなし」とでも解するほかない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


墨東奇譚” への2件のコメント

  1.  空きベッド検索システムは、手動更新なのが致命的欠陥だと思います。各病院の病院情報システムから、ベッド占有状況をリアルタイムに自動反映させるシステム構築でないと解決できないだろうと。実現が難しいことは理解していますが。

     都道府県がおこなう医療機能情報提供制度も同様で、情報の更新遅れのため、「登録情報を見て病院に行ったら、その日が診療日であるはずの外来は先月閉鎖されていた……」という問題が起きてくるだろうと思います。
     「キモのところがその設計で、果たして使えるのだろうか?」と首をかしげたくなるシステムが最近少なくありません。

  2. 公平に問題を見つめてください。今回の事例は、まず極めて稀なケースです。妊婦ははげしい頭痛を訴えていることから、産科、及び脳外科医を要します。さらに、緊急分娩で仮死状態で生まれる新生児をみる新生児科医も必要です。この条件を備える病院で、かつ、空床(空きベッド)のある病院、かつ極めて迅速に対応できる病院・・・そんな便利な病院は現実問題ありえません。これは、行政等々のレベルではありません。墨東病院はそれでも、なんとか必死に患者を受けて、何とか赤ちゃんは助けた。なんと、1時間程度の受け入れ態勢で望んだ。(我々の業界では驚異的短時間での決断)賞賛に値します。なのに、マスコミは〝病院受け入れ拒否〟などとあおり、自身絶望の中、必死に対応した医師のねぎらいの言葉もなく、一つの生命を助けた事実を覆い隠すような報道を繰り返し、揚げ句の果て行政責任に摩り替えています。世界で一番新生児死亡率の低い日本の典型的高度医療を示したのに、評価されない。給料50万で月休み1日で週100時間以上勤務をこなす、我々を侮辱しているのは誰でしょうか

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