歴史は二度繰り返すのか?

先月も取り上げたが、この間ナンバーワン医療ポータルをめざしてきたRevolutionHealth社の失敗がますます明白になってきている。同社CEOスティーブ・ケース氏はどうやら本気で企業売却に乗り出しているようで、すでに従業員の大規模なレイオフが始っている。しかし、昨年春にサイトオープンして以来、わずか1年半のことであり、その「あまりにも短すぎる挑戦」をめぐって議論が起きている。

まず、ドットコムバブル時代のDrkoop社など「先例」との類似を指摘する声も多いが、やはり「打倒WebMD」をあまりにも急ぎすぎ、無理な企業買収の頻発などが結果的に足を引っ張ったとの見方が一般的であるようだ。スティーブ・ケース氏にはそれなりの目算もあったのだろうが、それにしても10年かけて首位医療ポータルの座を築いてきたWebMDに対し、ゼロから短期勝負で簡単に抜き去ることができるという考え方自体が、あまりにも医療情報サービスというものをなめすぎていたのではなかったか。

医療情報提供からコミュニティそしてPHRまで、およそ考えられるほとんどの医療情報サービスをRevolutionHealthは網羅しており、WebMDに文字通り対抗できる「ワンストップ医療ポータル」を物量的には実現していた。だが以前のエントリで指摘したように、このような全方位対応が結局のところサイト性格と個性を希釈してしまい、ユーザーから見て「なんでもあるが、欲しいサービスはなにもない」という状態になっていた。つまり「医療情報サービスの百貨店化」が起きていたのである。たとえばPHRだが、あとから出てきたHealth VaultやGoogle Healthにくらべ、ほとんどまったく話題にならなかった。それほどにPHRとしての新規性に乏しかったということだ。RevolutionHealthの「顔」となるシンボルサービスを、ついに何一つ作り切れなかったとも言えよう。

このあたりが「医療情報サービスをなめている」ということかも知れない。既に存在するサービスアイテムを徹底的にかき集めればユーザーが集まるだろう、という考え方がこのサイトの起動期から透けて見えていたのである。また、スティーブ・ケース氏自身がいったいどのようなビジョンを持っているのかも、まったく不明であった。つまり大声で叫ばれる「革命」とは裏腹に、「何を目指す革命なのか」はついに語られなかったのである。

性急な企業売却の裏には、現経営陣がいわゆる「ゴールデン・パラシュート」を狙って自己保身に走っている事情があるのではとの批判も強い。これも含め、今回のRevolutionHealth売却劇にはドットコムバブル崩壊期の既視感がつきまとう。

一部にはこれをHealth2.0ムーブメント批判の材料にしようとする動きも見られ、にわかに議論が沸き起こっている。Health2.0批判派の急先鋒である「Trusted.MD Network」を主宰するドミトリ・クルーグリャク氏などは、RevolutionHealthの失敗をHealth2.0ムーブメントの限界と捉える論陣を張っているが、これはいささか牽強付会の感が強い。早速、Health2.0陣営からはマシュー・ホルト氏が応戦しているが、考えてみるとこの両者の「論争」は一昨年の暮れから続いてきたのである。この両者の対立軸はどこにあるかと言えば、そもそもそれは「Web2.0の評価」に遡る。つまり、ITエスタブリッシュメント陣営の2.0に対する否定的態度を医療分野で代弁しているのがクルーグリャク氏のグループであり、2.0を「ドットコムバブルの再来」と批判しているのだ。一方、2.0を積極的に評価し、医療分野への導入に取り組んでいるのがHealth2.0の人々なのである。振り返ると二年前の秋に起きたクルーグリャク氏とスコット・シュリーブ氏の「2.0評価論争」以来、当方もこれらの論争を注意深く見てきたのだが、ここへきて何か生産的な議論にはなっていないような雰囲気を感じてしまう。

ともあれRevolutionHealthの蹉跌には、学ぶべき多くの教訓が含まれているように思われる。それにしても、はたして買い手は現れるのだろうか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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