「患者様」呼称とサービス

Doctor080829今週初め、ある新聞(たぶん日経)を眺めていたら、数年前から病院で流行っていた「患者様」呼称が、最近廃止されはじめているとの記事を目にした。同様の記事は昨春ごろ朝日新聞にも出ていたが、このブログでもエントリに取り上げている。だが、この「患者様」呼称が、実は厚労省の通達によって指導されたものであるということは、初めて知ったのである。厚労省は90年代終り頃、たしか「厚生白書」(当時)において「医療はサービス業である」と言い出したのであるが、おそらく病院に対する「患者様」呼称の強制は、この「医療=サービス業論」の延長上にあるものと思われる。

だが医療はサービス業であるが、しかしその「サービス」はホテルやファーストフードなどが提供している「サービス」と同一視できるものではない。ホテルやファーストフードの現場において「お客様」呼称が一般的であるからと言って、医療現場においても「患者様」を言いさえすればよいというのも、なんだかとんでもない短絡思考であるように見える。その現場にふさわしい呼称や言葉使いというものがあるべきだ。

少し前、当方は用あって近所の税務署を訪れた。カウンターの前でうろうろしていると、向こうから若い係員が立ち上がり、こちらに向かいながら声を発した。「ラッシャイッ!」。まさか、このように税務署から「歓迎」されるとは、夢にも思っていなかった。また「歓迎」されるようなことをした覚えもない。できれば、あまり関わりあいたくないものだ。しかし、魚屋ではないのである。カウンターの向こうから「マイドッ!」と揉み手で微笑みかけられたりしたら、不気味である。なにかもう少し「税務署」にふさわしい応対というものがあってもよさそうだ。

医療現場も同じことが言えるだろう。「患者様」では何かがおかしいのだ。相手をどのように呼ぶかという問題は、実は相手と自分との間に、どのような関係性を構築するかという問題である。そう考えると、「患者様」呼称が指し示しているのは、患者との円滑な関係性を構築できないでいる医療現場の実態である。

医療がサービス業であるとして、ではその「サービス」の中身をどう考えるべきなのか。医療が従来のパターナリズムやプロフェッショナル・フリーダムという特権的立ち位置から脱却したとき、では患者とどのように向き合うべきなのか。「患者様」、「患者中心医療」などの言葉が、消費者側になぜ歯が浮くような感じを与えるのか。まだ、これらの答えは見つかっていないのかも知れない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


「患者様」呼称とサービス” への1件のコメント

  1. 初めまして三宅さん
    ブログ拝読しました。私は地方の病院勤務医ですが、
    「患者様」という言い方に違和感を覚えます。患者さんは来たくて来てる訳でもないし、医療は商品を売る商売とは異質のものです。にもかかわらず国からの通達で患者様という呼称を盲目的に使っている現状はおかしいと感じます。この前私の病院内の会議で発言する機会があり、意見を述べたら皆は一様にキョトンとした表情をしていました。会議の内容は、対外的な文書の内容について検討するものでしたが・・・
    これからも唱えていくつもりです。
    ありがとうございました。

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