ビジョン不在の医療情報化論

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一昨日のエントリで、PHRに対する当方の当面の関わり方について述べた。もちろん医療システム全体における中心的役割を、今後PHRが果たしていくことはまちがいない。だが、この春発表された「日本版PHRを活用した健康サービス研究会」(経産省、厚労省、総務省、内閣官房)の総括報告書を読んで、本来のPHRがどのように矮小化されてしまうかを目の当たりにして、失望を禁じ得なかったのである。この研究会とその報告書に対する当方の批判は、こっちのエントリにまとめてある。

その後、「日本におけるPHR」の動向には全く関心がなかったが、一昨日エントリを書いてからGoogleで検索してみると、いくつか関連する出来事が浮かび上がってきた。どうやら「健康情報活用基盤構築のための標準化及び実証事業」というプロジェクトが経産省主導で動き出している模様である。ざっと目を走らせると、「やはり」と言うべきか、「またしても!」と言うべきか・・・とにかくこの種の官庁プロジェクトでは「お決まり」の「公募コンソーシアム」が募集・決定されている。予算は7億円で4つの「コンソーシアム」が決定済み。かつて数年前、厚労省がこの種の「健康関連市場開発コンソーシアム」を多数募集し実施していたが、結局、事業化にたどり着いたものは一つもなかったと記憶している。また個々の「実証実験プロジェクト」の結果がどうであったかも、一向に定かではなかった。果たして公表されたのか?。だが今回、経産省はじめ関係者諸氏は、きっと「結果責任」を取ってくれるのだろう。

ところで、これらのPHRをめぐる官庁主体のプロジェクトを一瞥してみると、「経産省主導」ということもあるのだろうが、万事「まず情報化ありき」でコトが進められているのが明白に見てとれる。「健康情報活用基盤構築」と題されながら、皮肉にもそこに決定的に欠落しているのは「医療のビジョン」である。何か意図的に「医療界を外した」ような気配さえ感じられるのだが、それにも増して「消費者の医療ニーズ」という観点も完全にスポイルされている。「どのような医療が必要なのか」についての議論を深めることなく、強引に「医療情報化」の旗が振られ、すべてが進められているように見えるのはなぜなのか。

採択された「コンソーシアム」の企画書なども、消費者の医療ニーズは完全無視であるばかりでなく、頻出するDM(Disease Management)の同工異曲を見ても明らかなように、逆に消費者を「コマンド&コントロール」の対象とさえ見ているものが多い。PHRについて一知半解の認識しか持っていない企画案が、大手を振って採択コンソーシアムにされている。

前のエントリにも記したが、Google Healthの前アーキテクトであったアダム・ボスワース氏は、まずGoogle Healthを先導する「消費者の三つのコア・アビリティ」と題するビジョンの開発から着手した。「発見、行動、コミュニティ」からなるこの「消費者の三つのコア・アビリティ」は、抽象的で歯の浮くようなお題目の羅列ではなく、癌患者であったアダム・ボスワース氏の母親自身の体験などに基づき、具体的な消費者の体験とニーズに対する緻密な洞察を元に構築されたものである。それゆえに、Google Healthは単なる医療情報システムである以上に、「Googleが医療を変えてくれる」という米国社会の大きな期待感を喚起しえたのである。このような社会全体の期待感を喚起できるほどの力を、はたして今回の「健康情報活用基盤構築」は有しているであろうか?。否、その存在さえも、ほとんどの国民は知らないのではないのか。

やがて登場するはずの「Google Health日本版」に期待しよう。K君、期待してます!頑張って!。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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