日本のPHR(Personal Health Records)について

最近、PHR(Personal Health Records)について意見を求められることが多い。たしかに、日本語のまとまったPHR情報を探してもこのブログぐらいしかソースがない。そこで当方に問い合わせをしてみよう、ということなのだろう。以前はそれらの問い合わせに応じて、当方で把握している情報を提供したりすることもあったのだが、最近はこの種の問い合わせには対応しないようにしている。この場を借りて、問い合わせをされて来られる方々には不義理をご容赦願いたい。

まず、当方はPHR評論家でも研究者でもない。昨年来、Google Healthを中心にPHRに関するエントリはずいぶん書いてきたが、それらも新しい医療サービスを考える手がかりや教材として、また純粋に当方の思考実験材料に利用したにすぎないのである。それに、情報ソースもすべてウェブ上に公開されているものばかりであり、特別な取材源を持っているわけでもない。だから、誰でもすこし丹念に調べるつもりさえあれば、フィードリーダーなどを活用して必要な情報を好きなだけすぐさま集めることができる。中には「リンクやOPMLまで提供してほしい」というご要望を頂戴することもあるが、そこまで当方が手取り足取りして面倒をみるわけにも行かない。どうかご自分でお探しいただきたい。また、もちろんこのブログで利用できるところがあれば、どんどん使ってもらって結構である。

だが一番大きい理由として、「目下のところ当方は『TOBYO』に注力している」ということがある。PHRをはじめ患者SNSなどにも関心はあるが、現実に事業化をめざしているのは『TOBYO』である。ここのところが重要だと思っている。PHRではなく『TOBYO』の事業化をめざすという優先順位の立て方自体に、当方の医療サービスにたいする状況認識や考え方が要約されているはずなのだ。そしてそれら状況認識や考えかたは、このブログを最初から全部お読みいただければ、自ずからお分かりいただけるだろう。

さらにあえて言えば、「日本で本格的にPHRを立ち上げようとすると、とんでもない煩雑な問題と向き合うことになる」という直感がある。おそらくデータの標準化、セキュリティ、プライバシーから関連諸法規問題に至るまで、一筋縄ではいかない「関係調整」が必要となるだろう。特に日本の旧来の医療関連IT分野を考えると、過剰コンプライアンスや事大主義が時間とコストを浪費しているように見える。はっきり言って、これらにお付き合いするのはご免である。

たまたま先週、医療ITに関するエスター・ダイソンの論文が米国「Health Affairs」に掲載されていたが、この中でエスター・ダイソンはeバンキング・サービスの発展経緯を概観しながら、医療ITそしてPHRがeバンキングと同じような進化をするはずだと予想し「これには実際、何の新しい法規も基準も必要ないのだ」と言いきっている。その通りだと思う。だが、日本の場合、セキュリティやプライバシーについて必要以上に大騒ぎする傾向がある。これら日本の医療IT関連の学者、役所、ベンダ、専門家、NPO関係者などと、お付き合いするつもりはさらさらない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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