横断的な知の結集

残暑厳しき折、一人の若者が当方を訪問してくれた。医療変革にかける彼の大きな志に接し、清涼な風に吹かれるような清々しい時間を持つことができた。まず、このことに感謝をしたい。Health2.0、PHRと意見交換したが、あらためて日本におけるこれらの可能性を問われてみると、まだ自分なりに決着のついていない問題も多いことに気づかされ、はたして充分に返答できたかどうか定かではない。

たとえばPHRであるが、いくつかの試行はあるものの、まだ日本では本格的なPHRは出現していない。その原因を説明するために、日本医療の現状からネガティブファクターをもっともらしく列挙するのは容易だろうが、それを言ってみたとことで現実的なソリューションを提起することにはならない。とどのつまり、リスク負担を覚悟する確信犯的なプレイヤーがまだ登場していないということではないのか。「確信犯的なプレイヤー」さえ舞台に上がれば、局面を打開するシナリオはなんとでも作案でき、それなりに舞台はブリコラージュとアドリブで進行するのだろう。

だが、ある官庁主催の研究プロジェクトでは、メンバーから「国があらかじめ基準を決めてくれたほうが事業化しやすい」との声まで上がっていると聞いた。どうやら「国にお膳立てしてもらい、リスク軽減してもらいたい」との思惑の方が勝っているようだ。このような産業風土から「確信犯プレイヤー」が出現する確率は低い。日本の医療界とその周辺分野から、米国のような大規模PHRが立ち上がる気配は、今のところない。

おそらく確信犯的なプレイヤーは、医療界とその周辺からではなく、それらの外部から現われてくるのだろう。これまで、医療界や医療IT業界とはほとんど関係のなかったプレイヤーが、外部から登場してくるのだろう。医療業界の「常識」さえ理解していないような、そんな純然たるアウトサイダーだから旧い利害関係に縛られず、新しい発想を医療に持ち込むことが可能なのだろう。

若者の医療変革にかける熱意あふれる説明を聞きながら、思わず以上のようなことを考えていた。だからと言って「君が確信犯プレイヤーになれ」と能天気にそそのかすわけにもいかない。だが従来の分別や常識を疑い覆していかなければ、何も新しいものを実現することはできない。おそらく今、アウトサイダーの横断的な知を医療に結集させるべき時が来ているのだと思う。医療という内向的な領域を、外へ向けて開いていくべき時が来ているのだと思う。今日会った若者は、これらの時代の雰囲気を鋭敏に感じ取り、迅速に反応し、そして行動を開始している。日本に素晴らしい若者たちが登場しつつあることを、今日は教えてもらった。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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