過去への誘惑

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RevolutionHealthが苦戦している。一昨日(8月4日)のTechCrunchは次のように報じている。

Revolution Healthはいろいろトラブルを抱えているという噂で、レイオフを繰り返していることが報道されている。またMorgan Stanleyを雇って買収してくれる相手を探しているとも伝えられる。トラフィックもピーク時の月間400万近くから先月は160万へと急降下した。

さらに、女性向け広告ネットワークであるGlamMediaがRevolutionHealthの買収に乗り出しているとの噂もあるようだ。RevolutionHealthはAOL創始者のスティーブ・ケース氏をCEOとし、元ネットスケープ社のジム・バークスデール氏、HPの元CEOのカーリー・フィオリーナ氏、元国務長官コリン・パウエル氏など、超豪華メンバーの経営陣や、初期投資総額500億円などで話題になった。従来のWebMDの独占を崩す医療ポータルとして、期待は大きかったのだが、どうやら失速感がはっきりしてきているようだ。

昨年末のこのブログのエントリでは、次のように述べておいた。

「100を超える健康ツール」を擁し多機能を誇るRevolutionHealthではあるが、その一つ一つを仔細に検討すれば、目新しいものは何一つないとも言える。つまり、エッジを切り出すようなアイデアではなく、物量を極めた量的圧倒感だけが突出しているように見えるのだ。このようなマーケティングは、果たしてユーザー・オリエンテッドと言えるだろうか?。しかも、「医療サービスとの親和性」という点は考慮されているのだろうか?。様々な疑念が立ち上がってくるのである。(「拡大路線を突っ走るRevolutionHealth」)

改めてRevolutionHealthサイトを訪問してみると、上に述べた「物量作戦」は相変わらずだが、全体としてこのサイトが「何の変哲もないWeb1.0のポータルサイト」へと変質してしまっている印象が強い。最大の競合相手であるWebMDを意識すればするほど、同質化が起きたということか。そして、一昨年のプライベート・ベータ段階では確かにあったはずの、何か新しいことが始まりそうな予感、荒削りな輝き、今にも動き出しそうな疾走感。それらはいったい、どこへ行ってしまったのだろうか。

では、これら「失敗の原因」をどこに求めるべきだろうか。まず、「全方位フルライン対応」というサイト戦略の問題が指摘されよう。消費者のすべての医療ニーズに対応しようという狙いが、結局のところ、どの消費者ニーズも満足させられなかったのではなかったか。これは一昔前の日本の百貨店やGMSの状況と似ている。そして、医療情報サービスの場合、一般的な健康ケアとシリアスな疾病ケアを区別しなければならないのだが、そこの見極めに失敗している。これは、日本の医療ポータルやISP系ポータル医療コーナーなどと、同じ過ちを犯していると言えるだろう。

一般的な健康ケア情報は、制作者側が考えているほどには、消費者にとって魅力的なコンテンツではない。ところがそこの見極めが甘いと、雑誌ライクなコンテンツを大量に作ってしまうことになる。これは単純に人と時間を増加させるコストドライバーなのに、それに気づかず、徐々にサイト運営は雑誌の「編集作業」に近づき、似たものになっていく。そして、これらすべては、端的に言ってWeb1.0と何ら変わるところはない。本来不要な「編集スタッフ」が増え、コストはかさみ、しかも誰も読まないゴミのようなコンテンツがサイトに横溢することになる。

おそらく、「コンテンツは患者が作るのだ」というシンプルな原理さえ立てていれば、これらは回避できたはずだ。だが、「Web1.0の誘惑」はやはり根強く、抗しがたく存在している。Health2.0は、これら「過去への誘惑」を越えた向こう側にある。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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