病院レーティング

今日は来客があり、ひとしきり新しいヘルスケア・ビジネスについて意見交換したのだが、ずいぶん久しぶりに病院レーティングの話題が出た。思えば当方は、数年前、この病院レーティングを事業化しようと起業したのだった。それが紆余曲折を経て、結局、TOBYO開発へとたどり着いたのだが、その後の日本の病院レーティング・サービス分野を見ると、どうやらさしたる成果も上がっていないように見受けられる。

日本の場合、病院の情報開示が遅れており、レーティングに必要な基礎データの入手が難しいことがこの分野の事業化を困難にしている。特にアウトカム(治療成績)データだが、これは病院レーティングには必須であるにもかかわらず、ほとんど病院からは公開されていない。まれに病院サイトで公開されている例も目にするが、非常に恣意的な公開方法がとられており、病院を相互比較できるようなものではない。

医療機関側がアウトカム・データの公開を渋ってきた理由は、表向き「患者の重篤度が違うために、一概にアウトカムデータを比較指標に使えない」というものであったが、米国などではデータ補正および標準化のノウハウが年々蓄積されつつあるのに対し、日本では補正技術開発は実質的に等閑視されている。これではいつまでたっても、アウトカムデータの公開はおぼつかないし、それに基づくレーティング・ビジネスも成立しそうにない。

そこで、日本では代替措置として手術件数や患者満足度などが病院間比較指標として用いられているのだが、当然これらはアウトカム・データに及ぶべくもないのである。数年前、ある音楽チャート出版企業が「患者が選んだ・・・」という触れ込みで、患者満足度に基づくレーティング本を出し10万部を売ったことがあったが、結局、統計的根拠を医療界側から突かれ批判された経緯がある。しかし、このレーティング本がかなりの売れ行きを示したことは、病院レーティングに強いニーズが存在することを明らかにしたと言えよう。

一方、昨年から、厚労省が音頭をとり各地方自治体で実施している「医療機能情報提供制度」だが、あらかじめ「機能」情報提供という限界設定があり、アウトカム情報が公開される見込みは低い。「構造、機能、結果(アウトカム)」というドナベディアン・モデルに呪縛された発想を越えられないのだ。

また、この「医療機能情報提供制度」だが、そもそも自治体などに病院情報開示をさせることが適当かどうかを本来は議論すべきである。むしろ役所は医療機関情報の強制収集に徹し、そのデータを民間に開放すれば、病院レーティングサービスをはじめ、より創意工夫のある便利なサービスが民間側で開発される可能性は大きいはずだ。

消費者側が一番知りたいのは、病院ごとの治療成績であることは間違いない。これは医療選択に欠かせぬ情報である。だが、日本の医療界とその周辺は、先日取り上げた「病院名、医師名の匿名化」に見られるように、差異を特定化する固有名詞のついた情報を忌避する文化を持っているように見える。これはあきらかに、今日の消費者ニーズにも、透明化と開放性をめざす世界の医療の方向性にも逆行するものだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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