患者SNSの「trusera」が正式オープン

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今年初めのエントリでも取り上げた米国シアトル発の患者SNS「trusera」だが、先週から「ベータ版」表示がとれ、正式公開版がリリースされた。この「trusera」は元Amazon在籍者が中心になって事業化されているので、「Amazon譲りの・・・・」とでも言うべきか、とにかく優れたサーチテクノロジーがコアとなってそのサービスを支えている。

まずこの正式公開版を見ての感想は、「以前のバージョンから、ずいぶん思い切った整理をしてきたなあ」ということ。サイト内は二層に分けられ、まず「ストーリー、アンサー、ピープル」の各一覧ページが位置するトップレイヤー、そして会員ユーザーごとの「プロファイル、ストーリー、アンサー、フレンド、ジャーナル」を表示するユーザーレイヤーで構成されている。このあたりは、非常にすっきりと整理されている。

一方、他の患者SNSでは、普通、病名を主たるカテゴリーとしてフォーラムやチャンネルを用意しているのだが、この「trusera」では病名ごとのカテゴリー自体がない。だからフォーラムをはじめ、病名ごとのコミュニティスペースというものが見当たらないのだ。そのかわり、ユーザーが投稿した「プロファイル、ストーリー、アンサー、ジャーナル」を、独自の検索エンジンが構文とキイワードの両面で解析し、似た経験、似た症状を持つユーザー同士を適切にマッチングさせる機能を提供している。このあたり、たしかにAmazonのレコメンデーション機能と似たところもある。いや、Amazonの基本発想そのものを持ち込んだ患者SNSと言えるのかもしれない。「あなたと同じような病気の経験をした人は、他にこんなことも言っていますよ」というように、「似た者同士」の情報が提示されるわけなのだ。

ところで、ここで言われている「ストーリー、ジャーナル」は、日本における闘病記と通常日記にそれぞれ該当する。一般に英語の「ペイシャント・ストーリー」あるいは「ホスピタル・ダイアリー」という言葉が日本の闘病記に該当するのだが、双方の実態はかなり異なると考えた方が良い。「ペイシャント・ストーリー」とは、日本のわれわれがウェブ上で慣れ親しんでいる闘病記のようなものではなく、過去の自分の体験を手短にまとめたレポートのようなものである。同時進行で書かれる「ジャーナル」のほうが日本の闘病記に近いが、日本の闘病記に見られるような、詳細な事実記録と圧倒的な情報量にはまったく及ばない。「闘病記文化の成熟度」という点から言うと、日本がおそらく世界の先頭に位置するはずだ。

前のエントリでも触れたが、闘病者発の情報に基づくサービス開発の場合、特にその国の闘病記文化の成熟度がどの段階にあるかが重要であり、結局、その段階に応じた開発を進めなければならない。だからアメリカでは「trusera」のような形での開発があり得るとしても、これをそっくりそのまま日本に持ち込むわけには行かないのだ。

以上のような日米の差異はあるのだが、やはり「闘病ドキュメントの構文・ワード解析」という技術は魅力的である。これを詰めていけばテキストマイニングという応用領域が見えて来るわけで、現在他分野で行われている「ブログ・テキストマイニング解析」に基づくマーケティング・サービスが、将来医療でも実現される可能性を示している。しかし、そうなると、「闘病体験の共有」というソーシャルなうたい文句とそのビジネス実態との解離を、いったいどのように誠実に説明できるか、という難問が出てくるような気もする。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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