世界へ

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春先に出た海部美知さんの「パラダイス鎖国—忘れられた大国・日本」は多方面で話題になっているが、当方も一読し様々に考えるヒントをいただいた。しかし先週、ある席でTOBYOの今後の計画について、「当面、TOBYOのバーティカル検索対象を、全病名、闘病サイト5000、インデクシング100万ページへ持っていくことに注力したい」と説明したところ、「ではその後、世界へ出て行かれるのですね」とのお言葉を頂戴した。それは正直のところ、当方がまったく予期せぬ質問であった。では、なぜ予期していなかったのかと言えば、まさに当方自身が「パラダイス鎖国」の住人でありその発想に囚われていた、というほかない。

「TOBYOは、まだベータ版を公開したばかりであるし、それも検索対象は1500サイトの30万ページと限定的である。国内本格デビュー自体がこれからであり、とても『世界進出』まで考える段階ではない」等々と言い訳し、いかようにも現状は説明できる。だが、「国内市場」という無意識の前提を絶対的な条件として発想していたことは、疑えない事実である。せっかく海部美知さんが著書で指摘してくれたことを、自分達の事業に即して問題化出来ていなかったわけだ。そのことを、「世界へ出て行かれるのですね」と尋ねていただいた方から気づかされたわけだ。感謝しなければならない。

TOBYOは、ネット上に蓄積された闘病者体験をメタデータを付けながら整理していき、闘病サイトだけをバーティカル検索で全文検索し、すべての闘病体験事実を可視化し共有するサービスである。以前のエントリでも述べたが、このようなサービスはTOBYO以外、今のところ世界のどこにもまだ存在していない。事実として「世界初」なのだ。だがこれまで、「世界初の闘病体験バーティカル検索サービス登場!」などと、大仰な言い方はしてこなかった。これは、まず当方の「照れ」に由来する。それに、ネット上に公開された闘病体験量において、おそらく、世界的に見て日本がかなり突出しているという「日本の固有条件」もあるので、その有利な条件に依拠しながら「世界初」というのも、何かおこがましいではないか。

だが、もちろんわれわれが直面しているのは「国内闘病者層への浸透、認知形成、理解形成」という段階であるのだが、その先を透視することを忘却してはならないだろう。当面は国内で、「TOBYOは闘病。闘病はTOBYOから。」などパーセプションを構築することが先決だが、次はたとえば海外のHealth2.0企業と連携するなど、さまざまなシナリオを今から構想すべきなのだ。TOBYOの可能性を最初から過小評価しているようでは、なんのためのベンチャー起業だったのか。

そもそも闘病者体験は国境によって分断される必要はない。今や、世界中の闘病者が、闘病体験をインターネットで簡単に共有できる時代なのだ。基本条件は整っているが、サービス開発が遅れているだけなのだ。そして医療自体を考えても、これからは必ずしも「国民医療制度」だけをすべての議論の前提とする必要はない。最近、米国やEUの医療関連レポートを読むと「医療の国際競争戦略」という文言を頻繁に見かけるようになっている。米国政府の医療政策文書を見ると「強い国際競争力を持つ米国医療の確立」などの表現が目につく。現に、医療ツーリズムが世界的にブーム化しつつあり、すでに消費者は自国医療に縛られずに、世界中どこからでも自分に必要な医療を調達しつつある。一方では、米国クリーブランドクリニックの中東進出、日本の徳洲会のブルガリア進出をはじめ、医療機関の国際進出は活発化しつつあり、グローバル・ブランド構築をめぐる競争はすでに開始されている。

まず、自己の「パラダイス鎖国」体質や発想を乗り越え、その先に「世界」を見る視線を獲得すること。そしてさらに、「国民医療制度」という医療発想の桎梏を超えて、世界の闘病者の闘病体験を共有することをめざすこと。ベンチャーだからこそ「世界」を見ていかねばならない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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