英国の患者体験収集プロジェクト: Case Journal

CaseJournal

先週、英国ガーディアン紙に、BMJ(British Medical Journal)の前編集長リチャード・スミス氏によって、患者体験を「ケースレポート」として大規模に集めるプロジェクト「Case Journal」に関する記事が投稿された。それによれば、従来の「ケースレポート」は医療者のみが執筆する専門的なレポートであったが、それを患者が自発的に書いた体験記まで含め、将来は大規模なオンライン患者体験DBに集約する計画であるらしい。

患者はこれまで、自分たちの体験したことを発信するメディアを持たなかったが、今やソーシャルメディアを使って、膨大な患者発の闘病情報が社会へ向け発信されるようになった。伝統的医療界の内部からも、今後、このような「患者発の情報を医療に活かす」という動きは当然出てくるだろう。

一方、カナダで「Medicine2.0」を提唱し、今秋コンファレンスを準備しているトロント大学のギュンター・アイゼンバック教授は、自身のブログでこの「Case Journal」の動きに、ややもすれば冷やかな視線を向けている。

「Case Journalはオープンネス、参加性、そしてコラボレーションというWeb2.0の特徴の良い見本ではあるが、その『雑誌』というフォーマットがやや時代錯誤ではないかと思うし、今日では、ケースレポートにはブログなど他の草の根メディアがふさわしいと思う。『雑誌』というコンセプトがちょっと時代遅れだし、たぶんそれは不必要な『中間項』あるいはゲートキーパーではないだろうか。そのコンセプトは”apomediaries”すなわちネットワークプロセスに取って代わられるべきものだ。」(“Richard Smith launches Medicine 2.0 venture”)

以上のような批判を展開しているが、アイゼンバックは『中間項排除』(disintermediation)がWeb2.0でも、そしてHealth2.0でも重要であるとの見解を持っている。これを読みながら思い出したのは、かつて日本でもウェブ制作やサイト運用のワークフローが、雑誌編集とほぼ同じように見られていた時代があったということである。「編集会議」で制作方針を決め、素材を集め、外部スタッフに発注し、校正し・・・と、まさに雑誌編集感覚の労働集約スタイルでコンテンツを作っていた時代があった。

だが2.0以降、ユーザーがコンテンツを作る時代になると、このような「編集者」たちは不要になったのである。「中途半端にコンテンツを作り、コンテンツを持つ」ことよりも、むしろコンテンツを持たないスタイルのほうが今日的でさえある。そのように考えてみると、たしかにアイゼンバックの言うように、雑誌に患者発の体験情報をまとめるという発想自体が、救いがたいほどに時代錯誤であるように見えてくる。「雑誌にまとめる」という編集行為も、「雑誌」という中間項も、そしてそれら一連のプロセスを司る「ゲートキーパー」達も、本当は不要になってしまったのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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