Health2.0と闘病ネットワーク圏

PersonalHealth2

昨日紹介したCHCFレポート「患者の叡智」だが、PDFファイルをダウンロードできるページを紹介したつもりだったのだが、どうやらリンクを貼り間違えていたようだ。あらためて下記に正しい場所を再掲しておきたい。

The Wisdom of Patients: Health Care Meets Online Social Media

このレポートが発表されて、米国ブロゴスフィアでは大きな反響が起きている。概して好感を持って迎えられているといえよう。昨年春ごろからムーブメントとしての体裁を整えて今日に至るHealth2.0であるが、そう言えば、これまで今回のレポートのようなまとまったパンフレットの類は存在していなかったのである。多数の論客が結集したムーブメントであるHealth2.0としては、これはある意味で不思議なことだ。

だが、ムーブメントに参画する個人がてんでばらばらに、個人ブログから自由に意見を発表するというスタイルの方が、より2.0的であるとは言える。その中から、自然にスコット・シュリーブやジェーン・サラソン・カーンのような優れたオピニオンリーダーが登場してくる。伝統的な「組織」としてではなく、脱中心的な「場」として、一定の共通ルールと自律的規範が自然に作られ、ルースな分散ネットワークが形成される。これらHealth2.0ムーブメントの形成過程にあらためて目を投じると、これはまさに「闘病者ネットワーク圏」という言葉で以前指摘した、ウェブ上の患者ネットワークの成長過程と軌を一にするものであると言えるだろう。

「患者の叡智」に関連してジェーン・サラソン・カーンは次のように述べている。「人々(市民、患者、ケアギバー、消費者)は、医療におけるソーシャルメディアのアーリーアダプター(初期採用者)である。その採用は、医療界の他のどの関係者、すなわち医療機関、医療保険、そして製薬メーカーや機器メーカなどサプライヤーなど、よりも早かったのである」。

米国においても医療におけるウェブ利用は、まず「消費者、患者、ユーザー」など「人々」が先行し、その後を医療界関係者集団が追従するというディフュージョン・プロセスを踏んだのである。このことは、われわれも以前のエントリーで指摘しておいた。

われわれの初期のスローガンは「闘病体験の共有」であるが、実はわれわれよりもずっと先行して、闘病者達がこのことを自発的に実践していたのだ。インターネット黎明期から、かれら闘病者達によってネット上に「闘病ネットワーク圏」が、誰に頼まれたのでもなく自発的に作られて来たのであり、われわれは後からそのことにようやく気づいたに過ぎないのだ。(「自律、分散、協調」と「闘病ネットワーク圏」

たとえばC型肝炎患者達は、誰に頼まれたわけでもなく、自然発生的に「はてなアンテナ」や「はてなRSS」を利用して、患者同士の闘病記交流を強化している。(C型肝炎お仲間アンテナ)。また心臓病患者たちは「はてなリング」を使用して、やはり闘病記ベースの交流活性化をはかってきた。(残念ながら「はてなリング」はこの春終了したが)

これらに見られるように、闘病者たちの自然発生的なウェブツール活用は、常に日本のどんな医療界や医療ウェブサービス業者よりも先行していたのである。しかもこれらは、すべて「個人ベース」であることに注目すべきだろう。何かの団体や組織によって束ねられたものではなく、個人によって自然発生的に作り出されたムーブメントなのだ。このあたりの「ネットワーク的な特徴」を本質的に理解できるかどうかが、どうやら1.0と2.0を分岐するポイントなのだと思える。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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