患者の叡智 (Wisdom of Patients)

WisdomofPatients

一昨日、米国医療の先進的組織として知られるCHCF(California Health Care Foundation)が「患者の叡智。医療はオンライン・ソーシャルメディアと出会う」というレポートを発表した。これは、Health2.0ムーブメントを取り巻く状況を俯瞰する内容で、執筆陣もジェーン・サラソン・カーンをはじめ優秀な面々がそろい、読み応えのあるレポートになっている。レポートのPDFファイルは、ここで入手できる。

また、このレポートの紹介も兼ねて、ジェーン・サラソン・カーンは「iHealthBeat」に興味深いエントリをポストしている。それによれば、まずここ数年の間に、米国における消費者の「信頼」のあり方が大きく変化しているということだ。おおざっぱに言うと、消費者の信頼は「公的機関、企業、団体」から「自分と同じような人」へとシフトした。この背景には、サブプライム住宅ローン破綻、ガソリン高騰、食品高騰、FDA(米国食品医薬品局)不祥事など、米国で公的機関関係の深刻な問題が相次ぎ、結果として公的機関に対する信頼が著しく失墜してしまったとされている。

大手PR会社Edelmanが毎年実施している「信頼度バロメータ調査」によると、2006年から「伝統的権威」に対する米国の社会的信頼度が急速に低下し始めており、それに対して、「普通の人」に対する信頼度が上がり始めている。特に「あなたと同じような人、もしくはあなたの仲間」への信頼度は、2003年の22%から2006年には68%まで急上昇している。Edelmanではこれらの傾向について、この間急速に普及したソーシャルメディアやCGC(消費者生成コンテンツ)の影響が大きいと分析している。

ジェーン・サラソン・カーンはこれらのデータを引いて、医療でも同様な動きが起こっていると指摘する。「伝統的な権威」としての医療プロフェッショナルに対する絶対的な信頼が相対的に揺らぎ、むしろ「同じ病気、同じ症状の、自分と同じような患者」の体験を消費者は重視するようになってきている。

また従来、医療は「閉ざされた診療室で、一人の患者と一人の医師の間」において生起するものと考えられてきたが、今や、患者同士が体験を社会的にオープンに共有することによって、これら「医療の密室性」はどんどん透明化されつつあると、ジェーン・サラソン・カーンは指摘する。また、消費者のこれらの動きを止めることは最早不可能であり、むしろこれらを積極的に良い方向へ導くべきだという声の方が強くなってきている。この最たるものがHealth2.0ムーブメントであると言えよう。

日本ではどうか。日本の場合も、社会保険庁の目を覆いたくなるような諸不始末から始まって、長寿医療制度、医師不足に端を発する医療事故など、枚挙のいとまなく、まるで関係者が消費者の不信を高めるために、わざと不始末・不祥事を企んでいるかのようである。米国の「伝統的権威の失墜」どころではないのだ。そのように考えると、日本におけるHealth2.0に対する消費者側の潜在需要は、まさに膨大なものがあるはずだ。

だが、これらの「わかりやすい文脈」だけを過度にデフォルメしても、それはだめだろう。なぜなら、「現実」というものはもう少し複雑怪奇な構造になっているはずだからだ。そこのところを「あーだ。こーだ。」と考えるからベンチャーは面白い。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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