「第三者機関による医療サイト認証」という虚構

HON

今朝の朝日新聞を開いてみると、「携帯電話の閲覧制限、第三者機関設立、客観性担保が課題」という記事に目がとまった。現在進められている、自民党・民主党によるネット規制法案制定の動きも気になるが、では果たして、このような「第三者機関」による「サイト認証」が、国家規制よりもベターであると言えるのだろうか?。

そんなことを考えているうちに、ある記憶がよみがえってきた。二-三年前、ある大手医療機関チェーンの幹部と話をしていたのだが、その時、「ウチは今度、第三者機関のサイト認定を受けることにした」という幹部の発言があった。その発言の中で、とりわけ「第三者機関」という言葉に、妙な力感を込めた不思議なニュアンスがあったことが思い出される。それはあたかも「第三者機関」という言葉が、ただならぬ魔法の権威を象徴しているかのごとくであったのだ。医療者にとって「第三者機関」という言葉は、どうやら絶大な威力を持っているらしい。

では、その「医療機関のサイト認定」を執り行う「第三者機関」とやらだが、一体いかなるものなのかと言うと、日本ではあまりポピュラーでない二つの団体の名があげられる。どちらも自主規制コードを作り認定サービスを行っているのだが、この際はっきり言わしてもらうが、これら「第三者機関の認定」を取得したとして、なんの価値もメリットもないだろう。

日本ではどこの医療機関も財政逼迫しているのだから、無駄な時間的、金銭的コストを、このような無意味な活動で発生させるべきではない。それよりもきちんとしたサイト構築原理を確立したいのであれば、国連の社会経済理事会に帰属するHON(Health On the Net Foundation)が定めるところの、いわゆる「HONコード」と呼ばれる「健康関連ウェブサイトの情報提示ルール」に準拠すればよいだろう。このルールは各国語に翻訳されており、日本語版も公開されている。われわれのTOBYOも、HONコードに準拠することを明らかにしている。

日本語サイトのHON認定作業はまだサポートされていないので、HON認定マークを取得することは今のところできない。だがいずれ実現されるだろうし、当面、日本の医療機関は「HONコード遵守」をサイトに明示しておけばよいだろう。わざわざ、日本のマイナーな「第三者機関」のローカル・コードに従う必要はない。米国のケースを見ても、従来、HON以外の第三者機関認定マークなどを複数掲出している例をよく見かけたが、最近はMayoClinicをはじめHONに一本化してきており、HONが文字通りの世界標準になってきている。日本の「第三者機関」も、マイナーな自主コードなどを捨てて、むしろHONコードを採用し、日本におけるHON認定活動の専属エージェンシーにでもなった方が、よっぽど気が利いている。

また、HON認定マークはトップページだけでなく、サイト全ページに掲出するように変わってきている。実のところ、「コンテンツ・コンテナとしてのサイト」というサイト観はもう終わっている。サイト単位からページ単位へと情報流通単位はシフトしているから、医療情報認証もサイト単位からページ単位になったのだ。だから「サイトを認定する」ということが、すでに意味を失っていると言えよう。

まさにWeb2.0ムーブメントで言われた「Information wants to be FREE!」というスローガン通りに、情報はウェブサイトの壁を越え、ページ単位やフィードで自由に飛び交っている。これらの新しいウェブ認識において、日本の「第三者機関」とやらはまったく取り残されてしまっている。

だが、すでにHealth2.0ムーブメントの中では、HONでさえ「もう古い」との意見が出始めてきているのだ。上述したように「ページ単位で認定する」という必要が出て来たのだが、実際問題としてこれは不可能だからだ。HONマークを全ページに貼ることはできるが、全ページをチェックするわけにはいかない。つまり「第三者機関による認証」というもっともらしい虚構が、その虚構であるがゆえの実現不可能性とともに、次第にその正体を露見させ始めてきているのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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