多様化する医療情報提供

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昨日(2月1日)付け日経夕刊生活欄に「図書館で病を学ぶ」という記事がありました。「医療蔵書や闘病記、充実」、「患者の医師選び手助け」など見出しのもとに、「病気や治療法など医療情報を住民に提供する動きが公共図書館で広がっている。関連蔵書のコーナーをつくるほか、利用者がほしい情報がのった書籍や文献の検索を手伝う。図書館を利用して、患者が医療サービスを主体的に選べるように支援する狙いだ。」と報じています。

横浜市立中央図書館、鳥取県立図書館、東京都立中央図書館など、公立図書館での医療情報サービス提供の取り組みを紹介し、特に闘病記に関しては鳥取県立図書館が収集に注力していることを取り上げ、「(中略)力を入れるのが患者やその関係者による闘病記の収集だ。日々の生活や思いなどをありのままに記した闘病記は、一般の人がその病気や治療法を知る手がかりになるからだ。」としています。

公共図書館、そして病院が医療情報コーナーを設置するケースはここ数年増加しています。中には「闘病記文庫」などを設ける例もあります。従来、闘病記は医学、ノンフィクション、エッセーなど、図書館側の分類によって散在していたわけで、それらが一箇所に集められることだけでも利用者の利便性は高まります。

この日経の記事を読みながら、とっさに思いついたのは「これらリアル側の医療情報提供サービスとWebが結びつくと、もっと便利で役に立つ情報提供ができるのではないか」ということです。無論、図書館や病院のこれらの試みは結構なことで、どんどん進めてもらいたいと思います。しかし、たとえば各地の図書館や病院に設置された医療コーナーや闘病記文庫にどんな情報を持った文献があるか、それをネットで可視化できたり全文検索できたら、一層便利になるはずです。

そう考えると「Googleブック検索」がこれに近いサービスになりそうだと思えます。しかしここまで来ると、ほしい情報が記載された文献全部をネット上で閲覧できる可能性まであるので、そのとき図書館の存在意義はどうなるのかと考えてしまいます。情報提供が多様化することは利用者の選択肢が増えるという利点がありながら、一方では利用者獲得のための競争にどの情報提供者も放り込まれるということも意味します。多様化は競争促進をドライブする要因でもあるわけです。

さて多様化する医療情報提供サービスの中で、TOBYOはどのような位置を占めるのでしょうか。TOBYOが目指すものは、図書館の医療情報提供やHealthLineのような医療情報検索サービスが目指すものとは、まったく異質なものであると思います。図書館やHealthLineなどは、闘病者を情報消費者とみなして、整然と「上流から下流へ」とフローする医療情報経路を通じ情報を提供しようとしています。 これに対しTOBYOは、ある意味で上流も下流もないフラットなネットワークです。当面、「闘病者のWebツール」と呼ぶのが正解なのかもしれませんが、最終的にはWeb上の闘病者ネットワークをめざしているのです。

闘病記が製本された「本」というパッケージとして流通していた時代とは違い、今や闘病者は「Webを読み、Webに書く」ことを通じ他者と自己の体験を共有・活用することが可能になっているのです。TOBYOはこの可能性に着目し、他の医療情報提供サービスとは違い、あくまで闘病者側の体験情報共有に焦点を絞っているのです。

(Photo:wanderingone)

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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