なぜ進まない、医療のIT化

医療崩壊など危機を告げる警告が医療現場から上がっています。これらの危機の原因は、医療の構造的問題に帰着するゆえに、その解決は医療システムのある部分を切り出して部分最適化を行えば済むというものでは、どうやらなさそうです。ただ、われわれ生活者側から見れば、一般的に効率化によって有限な医療資源を有効に活用するということが、baby

なぜできないのかがわかりにくいところです。

医療の効率化ということでは、「ITによる医療の効率化」の号令が政府からここ数年にわたって何度も出されていながら、その導入は遅々として進捗していません。

2001年

    経済財政諮問会議 「医療サービス効率化プログラム」策定
    厚労省 「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」策定

2003年

    政府 「e-Japan 戦略Ⅱ」 7先導分野のトップに医療を位置づける

2005年

    厚労省 「医療制度構造改革試案」 レセプトのペーパーレス化提言
    政府・与党医療改革協議会 「医療制度改革大綱」 レセプト・オンライン化決定

2006年

    政府IT戦略本部 「IT新改革戦略」 医療機関から提出するレセプトの原則オンライン化決定

上記に見るように、再三にわたって「レセプト(診療報酬明細書)電算化」などによる医療の効率化が方針決定されながら、たとえばレセプト電算化の医療機関導入率14.6%(2006.3)とまったく進捗していない現状があります。それに、第一、「電算化」という言葉の使い方など、「一体いつの時代?」との疑問符もつきます。特に「請求-支払い」業務系、つまり誰が考えても、最もITの効率化による恩恵が期待できる分野でのこの状態は納得が行きません。

日経ヘルスケア21誌(2006.2)「e定点観測」調査によれば、レセプト・オンライン化に賛成する医師はわずか4.1%、反対する医師は24.5%、他の6割は「条件付賛成」との結果になっています。現場の医師がIT導入に消極的であることがわかりますが、その原因として以下の諸点が指摘されています。(「医療分野におけるIT化の展望と課題」厚生労働委員会調査室 松田茂敬)

(1)医療機関側にとって、システム投資に対する経済負担が大きく、事務効率化などのメリットが不明確
(2)電算化のための診療報酬上の評価や先払いなどのインセンティブがなかった
(3)診療情報を電子的に審査支払機関や保険者に提出することによる審査・点検強化への警戒感が医療機関側にあった
(4)医療機関に独自のシステムを納入したメーカー、ベンダー(販売者)が標準化につながるレセプト電算化に必ずしも積極的でなかった

これらのうち、決定的に解決不能なものはないように見えます。中でも(3)は首を傾げざるを得ません。合理的な請求がなされているならば、なぜこのような「警戒感」が出るのでしょうか。(4)は医療内部の問題ではありませんが、電子カルテなどベンダーごとに仕様が違い互換性がないことによって、これまでどれだけ国民医療費が無駄になってきたか・・・。限られた国民医療費の有効活用が前提である今日、有効なIT投資と無駄なIT投資を選別すべきでしょう。

また、現行の国民医療の請求-支払い業務は合理化の必要があるでしょう。医療機関側がレセプトを提出する審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金)ですが、これが医療機関と健康保険の間に介在する合理的意味はあるのでしょうか。むしろプロバイダー(医療提供側)とペイヤー(支払い側)が医療費をめぐって直接対峙し、一定の均衡へ向かって綱引きするほうが自然でしょうか。

医療現場では過酷な労働条件下での「危機」が語られていますが、労働条件改善にも寄与するであろうITによる医療の合理化・効率化が、他産業に比しなぜこうも進展しないのか。先日のエントリーでGoogleのアダム・ボスワース氏の米国医療界に対する「いらだち」を紹介しましたが、日本の医療IT化の立ち遅れは、国民医療劣化の原因の一つになっていると考えて間違いないでしょう。


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