ソーシャルサーチの医療分野への応用

mahalo

昨日はユーザー側の医療リテラシーを考えてみたが、これは情報洪水に主体的に立ち向かうために必要な能力の問題であった。だがこれとは逆の方向から、情報洪水そのものを整理した上で情報提供し、きちんとしたリテラシーを具えた個人がより効率的に医療情報を利用できるようにする努力も必要になるだろう。

医療情報を汎用検索エンジンで探す場合、とにかく膨大な量の検索結果が表示されるので、ユーザーが求める情報のあるページにたどり着くのに苦労する。怪しげなスパム情報も多く、何度も検索結果ページと当該ページの間を往復しながら、情報の品質を吟味しなければならないのだ。実際これには闘病者の多大な時間が費消されているはずだ。本当は、医療情報をじっくり時間をかけて読みたいはずなのだが、検索に費やす時間の方が、医療情報を読む時間を大幅に上回っているという本末転倒した現実がある。

たとえばGoogleで「糖尿病」を検索すると115万件の日本語検索結果が示されるのだが、これら全ページを見ようとすると、ひよっとすると人の一生が終わってしまうかもしれないのだ。つまり115万件の検索結果の提示という事実は、Googleの機械的検索能力の優秀さを誇示しているのかも知れないが、少なくとも現実に生きて活動する人間のニーズに対応しているとはとても言えない。

限られた時間の中で最も効率的に医療情報を学習するためには、まず医療情報自体がテキストとして優れたものである必要がある。わかりやすく正確で最新の記述、必要にして十分な情報量、理解の助けとなる動画・図・写真・音声情報、等々。これらを情報の洪水から探し出すのは、もはや検索者単独では手に負えないのかもしれない。そこでソーシャルサーチの登場である。

ソーシャルサーチとは端的に言って人力検索のことを指す。今のところGoogleのような検索エンジンは、ウェブページの情報の品質まで判断できない。検索結果リストの上位から順に情報品質が表示されているかと言えば、そんなことにはなっていない。そこで多くの人間がウェブ上のページの情報品質を目で見て判断し、すぐれた情報ページのリンクを集め想定検索ワードに対応する検索結果ページを作成する。これはある意味でWikipediaに非常によく似ている。Wikipediaは情報項目の内容となる記事を多数の人間が集まって書いていくのだが、ソーシャルサーチの場合、項目に対応するページリンクを集めて検索結果ページを作成することになる。

今年登場したソーシャルサーチエンジンで、順調に進行しているプロジェクトの一つがMahalo である。Mahaloは汎用のソーシャルサーチエンジンで基本的に自社社員の手で検索結果ページを作っているのだが、一般のユーザーが作ることもできる。その際、ユーザーが制作した検索結果ページが優れたものであると見なされれば、ユーザーは10ドルから15ドルの報酬を支払われる。つまり「検索結果ページ」というUGC(ユーザー生成コンテンツ)を有料で集めているわけである。逆にスパムなどを検索結果ページとして提出すると、そのユーザーは永久追放の憂き目にあうらしい。

またMahaloには「Mahalo Social」と呼ばれるSNSも設けられている。最近、コミュニティとソーシャルサーチエンジンが合体すれば、非常に強力な情報処理能力を発揮するのではないかと当方は考えているのだが、その一つの実験事例をMahaloは提供してくれている。

さて、われわれが開発している「TOBYO」(トービョー)は、当面、闘病体験の共有とインデックス化を目指すものだが、闘病体験の次には「闘病者の情報収集ウイズダム」自体を焦点化していく必要があると考えている。これは平たく言えば、闘病者なら必ず医療情報収集活動をしているはずなのだが、それを単独で一から始めるよりも、すでに先行して存在する闘病者の情報体験と知恵を参照し利用した方が早い、という考え方である。これを実現する方法は多種多様にあるはずだが、その一つの有望な方向性をMahaloが例示してくれているように思える。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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