世界感染症マップ: HealthMap

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HealthMapは世界の感染症アウトブレーク情報をアグリゲートし、地図という視覚的表現でわかりやすく提供している。情報ソースは、国際感染症学会の疾病発生監視プログラムのProMEDMail、WHO、ヨーロッパの疾病監視機関であるEuroSurveillance、それにGoogleNewsなどである。

GoogleMapsAPIを使ったマッシュアップ・サイトで、マップ上には国・地方レベルで、最新の感染症警告情報がその深刻度を色分けしてマーキングされてある。そのマークをクリックすると情報の詳細を読むことができるわけだ。マークは感染症警告を表すだけではない。たとえば日本に付されたマークには薬害C型肝炎のニュースが示されている。感染情報だけでなく、世界の重要な医療関連ニュースがリアルタイムで概観できるようになっている。

また、特定の感染症や特定の地域に絞って情報を見ることもできる。これら機能は非常にシンプルながら、世界の感染症状況をリアルタイムで可視化できているところが素晴らしい。これを眺めていると、地図上にマッピングすることで有効利用できる種類の情報というものが、確かにあるのだな、ということを改めて思い知らされる。全体状況を素早く把握し、必要な情報に簡単にアクセスするにはマッピングして見るのが便利だ。

このような感染症マップは、日本でも「インフルエンザ流行レベルマップ」が国立感染症研究所から提供されている。これは全国約5000のインフルエンザ定点医療機関を受診した患者数が、週ごとに把握されているとのことである。

HealthMapは、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の協同プロジェクトである医療情報工学研究部門小児科病院情報科学プログラムの一環として運営されているが、実際に開発し運営に携わっているのは、ソフトウェア研究開発者のClark Freifeld氏とハーバード・メディカル・スクールのJohn Brownstein博士の二人だけである。また開発環境もLAMPやGoogleMapsAPIなどオープンソースのみを利用しており、非常に少人数でロウコストなプロジェクトになっている。

ある意味で、われわれがHealth2.0でイメージしているのは、まさにこのようなライトウエイトなアプリケーションやツールであると言える。これには「オリジナル・コンテンツを作らない、持たない」ことが重要であり、いろいろなソースからアグリゲートして新しい情報の利用方法や見せ方を実現することを目指すべきなのだ。オリジナル・コンテンツを持つことが、むしろ「サービスの幅」を狭めるファクターになってしまうことは、国立感染症研究所のマップが「インフルエンザ・マップ」に特化せざるを得ないことを見てもわかる。HealthMapが幅広い医療トピックをマッピング提示できるのは、アグリゲーション・サービスに集中しているからだ。

このように考えると、また別の想念が浮かび上がってくる。国立感染症研究所はむしろ、国内5000か所の定点観測拠点病院から上がってくるロウデータの公開に徹するべきであり、そのデータを民間が使ってより一層便利なサービスを提供するという、そのような社会的「分業」があったほうが、より効率的でクオリティの高いサービスを供給できるのではないだろうか。この国立感染症研究所の場合、「ロウデータ収集-集計-マッピング-サイト制作」という一連の仕事をすべてやってしまっている。「やるな」とは言わないが、せめて同時にロウデータをパブリック・ドメインに位置づけ、公開もやってくれれば、それだけでベンチャーが有意義に生かす可能性が生まれるのだ。

ウェブ上で「ワン&オンリー」を謳歌するようなビジネスモデルは終わった。データからコンテンツから、何から何まで、すべてを自前で調達し囲い込むようなビジネスモデルも終わった。Health2.0とは、このような前提から始まっているのである。

そう言えば、このHealthMapと似ているが、もっとユーザー側の情報を重視した医療関連マップに「WHO IS SICK?」があることを思い出した。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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