帰って来たアダム・ボスワース氏

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ここ二年ほど、次世代ウェブ医療サービスのシンボルと目され、世界がその動向を注目してきた「Google Health」。だがプロジェクト開発は難渋し、ローンチは遅滞し、そして今年8月に行われた中間報告プレゼンテーション実施と同時に、とうとうGoogle Health開発リーダーにしてアーキテクトであったVPのアダム・ボスワース氏(写真)はGoogleを去って行ったのである。その後、「GoogleHealth」はマリッサ・メイヤーVPに引き継がれることになったことは、以前のエントリーで紹介した。

アダム・ボスワース氏はかつてXML開発やAJAX開発における中心的役割を果たし、技術者としての業績から高いリスペクトを払われる存在であるばかりでなく、この間、現状医療システムを鋭く批判的に洞察するビジョナリーとしても注目されてきた。GoogleHealthにおいても、アダム・ボスワース氏が示した医療ビジョンを中心に開発が進められていたのであり、その意味で、彼のプロジェクトからの撤退はGoogleHealthの今後に影を落とすものであった。

Googleとの間にどのような経緯があったかは依然として不明だが、アダム・ボスワース氏はその後、着々と「現場復帰」のための準備をしていたようだ。まず10月に入って個人ブログサイト「Adam Bosworth’s Weblog」がローンチされ、過去に発表したエントリーもこのサイトにまとめられた。次にHealth2.0のベンチャー企業であるKeas社をサンフランシスコで旗上げしている。これらを見ていると、アダム・ボスワース氏の主要な関心領域が、GoogleHealth以降も継続して医療に向けられていることがわかり、非常に嬉しい。また、このことはHealth2.0ムーブメント全体にとって心強いことだ。

さて、準備が一段落した今、復帰後最初のリバイバル・ステージが決まった。来月12月9日-11日にワシントンDCで開催されるコンファレンス「World Healthcare and Innovation Congress in Washington」からお呼びがかかり、最終日のキイノートスピーチを担当することが発表されたのである。このコンファレンスには「ウェブの発明者」であるティム・バーナーズ・リー氏やRevolutionHealthのCEOスティーブ・ケース氏をはじめ大物が登場するが、最終日のいわば「大トリ」を務めるわけで、医療情報業界でのアダム・ボスワース氏に対する注目度の大きさを示している。

さて、そのアダム・ボスワース氏のキイノートスピーチのタイトルだが、「物理学、スピード、そして心理学。(医療において何がワークし、何がワークしないのか?。そしてそれはなぜか?。)」というもの。これは実は、今年初めニューヨークのGoogleオフィスでおこなったAJAXについての講演タイトル「物理学、スピード、そして心理学。(ソフトウェアにおいて何がワークし、何がワークしないのか?。そしてそれはなぜか?。)」をもじったものだ。

今でこそ広く利用されているAJAXだが、発表された当初、その利用は広まらず、むしろ失敗したとさえ思われていたのである。今年初頭のニューヨーク講演では、このAJAXの初期段階の失敗についての詳細な分析が展開されたようだ。かつてのこのAJAXの頓挫を、アダム・ボスワース氏は、おそらくGoogleHealthの挫折にダブらせているものと思われる。非常に興味深い。

アダム・ボスワース氏が帰ってくる。当方もこの約一年間、氏の発言に教えられ触発されることが多かった。以前のエントリーで「『医療のことは医療者やプロに任せておけばよい』ではもう済まなくなっている。むしろ、生活者・患者を始め他分野の専門家も含め、もっと医療に対し発言をしていくべきだ。」(「医療をめぐる言説空間」)と記しておいたが、医療界内部の医療者よりも、アダム・ボスワース氏のような医療界外部の人に医療を再考するヒントを教えてもらう機会のほうがむしろ多かったと思う。

医療界内部の発言の多くは、やれ「医療崩壊」だの「焼け野原」だの、非生産的なボヤキやオドシの域を出ず、まったく何も得るものはなかったのである。

Health2.0のベンチャー経営者にしてビジョナリーであるアダム・ボスワース氏の、今後の活躍に注目したい。

Photo by spullara

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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