ディジーズ・マネジメントとHealth2.0

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「ディジーズ・マネジメント」とは、米国の医療保険会社によって、医療コスト削減と医療クオリティ改善の両方を実現するために開発された医療プログラムのことである。ちなみにDMAA(米国ディジーズ・マネジメント協会)によると、その定義は以下のように述べられている。

自己管理の努力が必要とされる患者集団のために作られた,ヘルスケアにおける介入・コミュニケーションのシステム。医師と患者との関係や医療計画をサポートする。エビデンスに基づく診療ガイドライン,患者を主体とする医療の戦略により,症状悪化・合併症の防止に重点をおく。総体的な健康改善を目標として,臨床的,人的,経済的アウトカムを評価する。
Disease Management Association of America(「ディジーズマネジメントとは何か」(坂巻弘之,森山美知子)の訳文)

さてこのディジーズ・マネジメントに対して、最近、主としてHealth2.0コミュニティからしばしば疑義が表明されている。Health2.0の中心的メディアであるブログサイト「Health2.0」に24日、「Disease Management 2.0?」と題されたエントリーがポストされた。これは9月の「Health2.0コンファレンス」の主催者の一人であるインドゥ・スバイヤ氏がまとめたもので、その冒頭は次のような言葉で始められている。

「Health2.0コミュニティで、次のように言うことが流行になっているように見える。
1.ディジーズ・マネジメントはワークしない
2.われわれは第一に、人々が健康で病気にならないことを奨励する必要がある」

スバイヤ氏は上記のような議論のレベルをもっと高度化し、従来のディジーズ・マネジメント論を、Health2.0で乗り越えていく可能性を検討するよう呼び掛けているのである。

「最初にこれら二つの発言をもう少し詳しく見てみよう。ディジーズ・マネジメントは実際には需要管理と効率的資源活用に言い換えられる。すなわち、慢性疾患患者を病院や緊急医療室の外へ出すこと、余分な検査や処置を最小限に抑えることである。そして次の問題は病気の予防に関するものであり、これには動機付け戦略、医療教育そしてセルフケアのためのツールが要求される。

ディジーズ・マネジメントに関する流行の言い草は、たいてい最初のタイプについてのものである。これはいわば「プッシュ型」のディジーズ・マネジメントである。問題は、Health2.0ツールを使って、われわれが十分簡単に「プル型」のディジーズマネジメントを作ることができるかどうかである。」

このようにスバイヤ氏は、従来のディジーズ・マネジメントの「プッシュ型」性格を批判的に指摘し、このようなスタイルでは生活者・患者のモチベーションや参加意欲を引き出すことが困難であると述べている。たしかに「現状分析-介入-評価」という一連のディジーズ・マネジメント・サイクルは、ターゲット(生活者・患者)に対し「コマンド&コントロール」として作用する一面を持ち、ターゲットの持続的参加を「プル」する力は弱かったのである。これら「プッシュ型」ディジーズ・マネジメントの欠陥を補い、ターゲットのモチベーションと参加意欲を高めるものとしてHealth2.0の諸ツール活用が提起されているのである。

さらに、従来ディジーズ・マネジメントでは病気のリスク予測まで含んでいたが、この予測技術はいまだ未熟であり、むしろ最近登場した23andMeやdeCODE Meのような個人遺伝子情報分析に基づくリスク予測のほうを有望視する声も強い。

ディジーズ・マネジメントをめぐる最大の皮肉は、「医療費削減のために、大規模ディジーズマネジメント予算を投下する」という事にある。国家であれ巨大企業であれ、結局こんな発想に陥りがちである。なぜこうなるのか?。それはディジーズ・マネジメントの基本サイクル「現状分析-介入-評価」を今一度思い返せば瞭然である。つまり、これは典型的な20世紀の「近代的マネジメント・サイクル」の医療版だ、ということだ。そして実はHealth2.0コミュニティは「医療のポストモダン」を志向しているのであり、ディジーズ・マネジメントのその重厚長大発想の限界を批判しているのである。

<参考>

「ディジーズマネジメントとは何か」(坂巻弘之,森山美知子), 週刊医学界新聞第2571号,9/2/2004

<Photo>
“Koff factory” by will_hybrid

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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