進化するウェブ遺伝子サービス

decodeme

Health2.0はソーシャルメディアを中心に展開されて行くだろうが、同時に、医療のエッジに位置する新技術をもどんどん巻き込んでいくはずだ。その先端医療技術の一つと目されているのが遺伝子工学である。遺伝子研究の成果と、ウェブによる生活者・患者の健康管理パワーの強化が結びつき、これまでの医療を変革していくことが期待されている。

Google資本による「23andMe」は以前のエントリーで取り上げたが、このたびサイトの全面的リニューアルをはかり、リローンチしたばかりである。遺伝子に関する学習用コンテンツが増強され、「シンプル&クリアー」なデザインが素晴らしい出来栄えである。さて、この「23andMe」に強力なライバルが登場した。サンフランシスコに本拠を置くNavigenics社、それにアイスランド本拠のdeCODE genetics社(上図)である。

Navigenics社では、遺伝子検査商品「ヘルス・コンパス」を来年早々リリースする。価格は2500ドルで、直接ウェブサイトで申込み、検査結果もウェブでユーザーに直接公開される。特徴は、糖尿病、肥満、前立腺がん、緑内障などを含む20以上の「病気リスク」をユーザーに知らせる点だ。ユーザーは一般成人の平均リスクと、遺伝子情報から得た自分のリスクを比較し、病気が場合によっては発現するかもしれない可能性を低減するための戦略を学ぶわけだ。

このように従来の遺伝子検査サービスとは違い、遺伝子情報からユーザーの将来病気リスクを予測し、その予防対策を指南することが提供するコア・バリューになってきているのだ。これは従来、遺伝子情報レポーティング・サービスにとどまっていた業態から、その情報利用ステージへと業態進化が起きていることを示している。つまり、単に自分の好奇心を満たすために遺伝子情報を眺めたり、自分の遺伝的系図を特定する段階から、積極的に遺伝子情報を自分の病気リスク予測と予防に活用する段階へと、サービスが高度化したということでもある。

23genome

従来から遺伝子検査は存在しており、その数は約1400種類と言われてきた。だが、その大多数は単一遺伝子の検査であり、概ねまれな病気に関連するものであった。それに対しNavigenics社「ヘルス・コンパス」は、もっと一般的な病気のリスクを予測しようとしている。だが、これら一般的な病気のリスクは、複数遺伝子や生活習慣に起因する可能性があり、このNavigenics社「ヘルス・コンパス」を「エビデンスが不足しており時期尚早」と批判する遺伝子専門家も存在する。

なお「ヘルス・コンパス」では、当面、直接ユーザーと検査申し込みや結果検討などのやり取りを行う方法を採用している。つまり、かかりつけ医など医療者が中間に立つことはない。これは、遺伝子情報知識を備えた医療者がまだほんのわずかしか存在しないためで、将来は十分な遺伝子情報利用スキルを持つ医療者を参加させる予定である。

このように遺伝子検査を起点として、遺伝子情報による病気リスク予測管理のウェブサービスは、ようやくその端緒を開いたばかりである。たとえば、その病気リスク予測精度についても、まだまだ不明確な部分は多い。つまり、この新しいウェブ遺伝子サービス市場が本格的に成立するのは、かなり先の話かもしれない。

だが、この先には大きな市場機会があると考えられている。自分の遺伝子情報を管理することによって、予測される自分のリスクに一層緻密に備え、生活習慣や運動などを一層効果的に改善することが可能となるのである。これは従来の医療よりも、生活者・患者がよりアクティブに自分の健康管理にコミットする道を開いているのである。おそらくこのようなPGM(Personal Genome Management:個人遺伝子情報管理) は、PHRの一部を形成することになるのではないか。

ウェブは、まず医療の「Openness & Transparency」を促進するソーシャルメディアであると同時に、以上見てきたように、医療の技術フロンティアを開く強力なツールでもある。この二つの側面を押さえておくことが、Health2.0の肝になると考える。

<参考>

The Wall Street Jounal, “Is There a Heart Attack In Your Future?”, By RON WINSLOW, November 6, 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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