ブランド病院のリテールクリニック市場進出

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米国を代表する最大規模の医療機関であるメイヨークリニック(MayoClinic)がリテールクリニック市場へ進出する。ミネソタ州に本拠を構え米国医療機関のリーディング・ブランドでもあるメイヨークリニックは、2008年初頭に新ブランド「メイヨー・エクスプレス・ケア」でリテールクリニックを展開すると発表した。

まず初期段階において、この「メイヨー・エクスプレス・ケア」はミネソタ州ロチェスターにある本拠病院を中心に、一部ウィスコンシン州を含む周辺地域市場をターゲット・エリアとして展開される。メイヨーは全米トップブランド病院として知られるが、周辺地域生活者のプライマリーケア・ニーズにまでその対応サービスを拡大する。つまり高度な医療はメイヨークリニック病院本体で、そして応急手当程度のケアは地域のメイヨー・エクスプレス・ケアでと、生活者側の医療ニーズにフルライン対応していく構えである。

過去のメイヨー病院での受療データは、「メイヨー・エクスプレス・ケア」ウェブサイトに保存される予定。これはPHRに違いないが、その仕様等はまだ明らかにされていない。メイヨーではこのPHRのメリットを、「ケアの継続性とケアの品質向上」という側面でプロモートしていく予定。

診療費は概ね49ドル-59ドルの価格帯に設定されるとのこと。すべての医療保険と公的保険メディケア、メディケイドが利用できる。

メイヨー・ブランドは全米あるいは世界中に知られているが、それでも今回のリテールクリニック市場進出は、メイヨーにとって本拠地の足元を固めるためのものである。従来、たとえ本拠地であっても、地元のリテールクリニック市場セグメントは他のローカル病院に牛耳られていたが、今回の「メイヨー・エクスプレス・ケア」投入によって地元商圏にさらなる網を張ることになる。そしてこの初期段階が成功すれば、次の段階としてフロリダ州とアリゾナ州へ、そしてさらに全米各地へとチェーン網を拡大する予定のようだ。

リテールクリニックによる米国の医療流通革命は、これまでミニット・クリニックやメッド・エクスプレスのような単独チェーンによって担われてきた。これに対し今回のメイヨー参入のケースは、大病院のブランドパワーを競争優位としてチェーン展開されるのであり、リテールクリニック市場の「幅」を拡大し、新しい競争次元が開かれたという意味で注目されるべきだ。従来のリテールクリニック・チェーンの「安価で便利」というシンプルな価値訴求に飽き足りない層を、「一流、名声」など魅力的なブランドパワーで獲得する可能性は大きい。

病院本体をフラッグシップとし、その周囲にクリニック群を配置展開するという「出店戦略」は、かつてGMS店をコアとし、周辺地域へCVS群(セブンイレブン)を配置展開したイトーヨーカ堂の出店戦略と非常によく似ている。地域商圏を「面」で占拠することを狙うわけだが、これに対しAMA(米国医師会)がどう反応するかが興味深い。すでにAMAは、既存リテールクリニック・チェーンに対し、自分たちの既得権を脅かすものとしてロビー活動など対抗措置を打ち始めているからだ。これも、かつて日本の量販店チェーン拡大期に、地元商店が大規模店舗法等の規制で対抗した図式と似ている。

いずれにせよ、米国の医療流通革命は拡大深化し始めた。この行方を決定する者は、従来医療界プレイヤーでも行政でもなく、生活者・患者なのである。

<参考>

“Mayo ‘convenience-care clinics’ planned for 2008″, Post-Bulletin, Rochester MN, 11/10/2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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