Health2.0ブロードビジョン:ノート3

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二回に分けて、ブライアン・クレッパー氏とジェーン・サラソーン・カーン氏による「Health 2.0ブロードビジョン」をご紹介したが、まだ翻訳が十分にこなれていないので今後改善していきたい。

このブロードビジョンが発表されたことは、Health2.0ムーブメントにとって非常に大きな意味を持つだろう。なぜならこのブロードビジョンによって、Health2.0が医療全体を視野に収める「改革ムーブメント」であることが一層明確になったからである。Web2.0を出自とするHealth2.0ではあるが、両者の間に際立った差異があるとすれば、それは「明確な制度改革への意志」の有無ということになるだろうか。

Web2.0はテクノロジーの進化と成熟を土台に、新しい知のありかた、新しいアーキテクチャー、新しい経済活動を提起し、20世紀的な社会経済秩序全体を揺さぶるディスラプティブな情報革命である。Health2.0はこのようなWeb2.0の一翼を医療分野において担いながらも、従来の医療制度を具体的なターゲットとした「制度改革ムーブメント」という側面をより強く持っている。

年初に、スコット・シュリーブ氏らが医療全体の改革をめざすものとしてHealth2.0を定義したとき、それを見て正直言って首をかしげざるを得なかった。もしも「医療かくあるべし」という議論から始めなければならないとしたら、とても実際に有用なサービスを現実に生み出す地点まで辿りつけそうもない、と思われたからである。このブログの以前のエントリーにも「スコラ論議」という表現で、改革原理主義に傾斜するようなHealth2.0論を批判してある。

だが、その後あの「GoogleHealth」の苦闘を見るにつけ、徐々に当方の考えを変えざるを得なかった。つまり医療というのは一つの複雑な社会システムあるいはネットワークであり、まずその総体を俯瞰するような視点を獲得し、次にその現状を批判する原理を立てなければ、とても新しいサービス一つさえ生みだしえないということに、次第に思い至ったからである。

たとえばこれまでも多数のPHRは存在したが、GoogleHealthがそれらと決定的に違うのは、従来のPHRが自己完結的な独立型サービスであったのに対し、GoogleHealthではさまざまなステークホルダーから、いかに個人医療情報をアグリゲートするかが重要命題として意識されていた点である。つまり、システムにおける「他者」との関係がはじめて意識された点が違っていたのである。これはさらに先日発表されたマイクロソフトのHealthVaultに至って、医療ステークホルダーとのパートナーシップ契約、コネクティビティ創出という形で具現化されることになる。

医療はさまざまなサービスの連続体であり、そこには多数の関係者が複雑に関与している。つまり今回のHealth2.0ブロードビジョンのように、医療システムを構成要素(パーツ)へ分解し、次に各パーツ間の関係を情報フローとして表現することによって、一度、全体を俯瞰した上で、PHRなど個別サービスがどのポジションに配置されるかを検討しなければ、実際にはどのようなサービスもワークしないのである。

かくして今回の「ブロードビジョン」は、まず「俯瞰の視点」を獲得する試みであるが、それは単に現状医療システムのあり様をトレースしているのではない。現状システムを批判する原理として「価格とパフォーマンスの透明性の確保」を提起し、この原理によってすべてのパーツとその相互関係が再設計されているのである。

だが、まだこのブロードビジョンでさえ複雑すぎるのかもしれない。今後、さらにシンプルに整理されるのだろうが、早くも一つの試案が提示された。上図のスコット・シュリーブ氏が提起した「Health2.0のトリプルA」は、Health2.0を構成する機能を「ブロードビジョン」をもとに徹底的に絞り込み、「Aggregate、Analyze、Advise」の三つに集約してある。さすがである。いつもながら、スコット・シュリーブ氏のビジョナリー・パワーには敬服させられる。

(図はスコット・シュリーブ氏の”AAA”)

<関連情報>

Health2.0ブロードビジョンと市場機能

Health2.0ブロードビジョン:ノート1

Health2.0ブロードビジョン:ノート2

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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