マイクロソフトから本格的PHRローンチ:Microsoft HealthVault

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10月4日付けニューヨークタイムズ紙は、マイクロソフトがPHR“Microsoft HealthVault”を同日リリースすると報じている。

今年に入って、米国では次世代医療ITシステムの鍵を握るのはPHRであるというコンセンサスが次第に形成されつつある。従来はEHRなど医療業務システムが次世代医療ITシステムの中核だとされてきたが、これらは所詮「業務システム」であり、直接消費者が自分の健康を管理するために使用するPHRのほうが、医療全体における価値が高いと考えられるようになってきたのである。この背景には、高騰をきわめる米国医療費を、生活者自身がPHRで健康管理をすることによってコストダウンしていこうという考えがある。

しかし、現実は理想通りにはいかない。”GoogleHealth”の頓挫、そしてインテル等のPHRプロジェクト”Dossia”をめぐる紛争と停滞。今年に入って、大手ITプレイヤーの相次ぐPHRプロジェクトの挫折を、連続して目撃してきたような気がする。だが、この間あまり注目されてこなかったマイクロソフトは、先行他社の迷走をよそに、意外にも本格的なPHRをひそかにそして着実に準備していたのだ。

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「ついに、あなたは家族の医療情報のフローをコントロールする方法を手に入れた。あなたが必要とする場所と時に。家族の健康状態を完全にタイムリーに、そしてワンタッチで記録することは、家族の生活の質を改善するのに役立ちます」。

このように記された”Why is HealthVault important?”のページには、HealthVaultの全体像が示されている。

あなたと家族

  • 医療検索
  • ダイレクト・インプット
  • FAXインプット

あなたの健康管理ウェブサイト

  • ウェブサイト
  • パーソナル・ヘルス・デバイス
  • ヘルスプラン

あなたの医療提供チーム

  • あなたの医師
  • 処方箋
  • イメージング&検査結果

これらを見ると、どうも機能カテゴリー区分がすっきりしていないという印象があり、「急造のやっつけ仕事」の感も無きにしも非ずである。当然これらは、今後もっと整理改善されていくのだろう。ただ従来のPHRと決定的に違うのは、生活者をとりまく外部関係者とのコネクティビティが強調されている点である。

PHRといっても、コアにある機能はユーザーの医療情報DBということになる。そうすると、その医療情報DBという基本価値を超えてユーザーの使用価値を決定するのは、「どのように、どこから医療情報を取ってくるか」と「どのように利用するか」の二つの問題、つまり「入力と出力」と「それにかかわる関係(協力)者」の問題になるはずだ。そして、従来のPHRは”GoogleHealth”も含め、この問題を結局解決しきれなかったのだ。

それに対しマイクロソフトは、この「入力と出力、外部関係(協力)者」というPHRのアキレス腱に、「外部コネクティビティの明確化」という方針で対処し、うまく乗り切っているように見える。

healthvaultconnect_s現時点でマイクロソフトとパートナーシップ契約を結んでいるのは以下の医療機関、組織である。

・アメリカ心臓病協会
・ジョンソン&ジョンソン・ライフスキャン、
・ニューヨーク長老派病院、
・メイヨークリニック
・メッドスター・ヘルス

HealthVaultはこれらの医療機関や組織と、ユーザーの許可に基づいて医療情報のやり取りを自動的におこなう。これらの医療機関や組織から見れば、顧客サービスの強化というメリットがあり、ユーザーから見れば煩雑なデータ入力から解放されるというメリットがある。

次に家庭用医療機器によるデータ入力も、コネクティビティ明確化の一環と言えよう。HealthVaultでは、血圧測定器、万歩計、血糖値測定器、ピーク・フロー・メーターなど様々な家庭用医療機器をユーザーのPCに接続するアプリケーション”HealthVaultConnection Center”を配布している。家庭用医療機器から直接入力されたデータは、HealthVaultサイトにアップロードされ、上記の外部パートナーに共有される。これで糖尿病など慢性疾患患者の、恒常的なモニタリング・システムが構築されることになる。

今回のHealthVaultのローンチは、PHRと次世代医療IT分野におけるエポック・メイキングなニュースである。ここのところ閉塞感が強かった医療情報サービス分野で、先月のHealth2.0コンファレンスとこの今回のHealthVault登場によって、何か状況が大きく動いたという気がする。だが、まだようやく始まったばかりである。”The best is yet to come.”

「これは長い旅になるだろう。医療を少しでも良いものにすることには、時間とスケールが必要なんだ。そしてマイクロソフトはその両方を持っている」とマイクロソフト医療グループの統括VPであるPeter Neupert氏は言う。

Googleはどうした。

Source:”Microsoft Rolls Out Personal Health Records”,The New York Times,October 4, 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


マイクロソフトから本格的PHRローンチ:Microsoft HealthVault” への4件のコメント

  1. ピンバック: blog.shiten.net

  2. 初めまして
    外資系コンサルティングファームで製薬業界の戦略~業務、ITコンサルティングをしているこ~いちと申します。

    いつもTOBYO開発ブログを楽しみに見ています。
    三宅さんの情報収集力及び見識の広さと深さにいつも感銘を受けいます。

    さて、もうご存知かもしれませんが今日付けのNewsでGoogle Healthのプランが若干見えて来たようです。
    まだ具体的な形ではどのようなサービスになるかは見えませんが、このようなコメントを出したのはMicrosoftに先を越されて焦って情報をディスクローズしたのかもしれませんね。

    御一読下さい。
    http://www.informationweek.com/news/showArticle.jhtml?articleID=202404027

  3. ピンバック: blog.shiten.info » Microsoft HealthVault と Google Health

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