eメール医療相談サービスは診療所の収入減になる?

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米国の大手健康保険会社カイザーパーマネンテ発表の調査結果によれば、eメールで医師から医療相談サービスを受けている患者はあまり診療所へ来院せず、診療所へ電話もかけないことがわかった。

カイザー社では数年前から実験プロジェクトとして、オレゴン州とワシントン州において、11万2千人の保険加入者に対しeメール医療相談サービスを実施してきた。その利用実態を調査したところ、eメールで医師と相談している患者は、診療所へ行く回数が7%-10%低下し、電話をする回数も14%低下していることがわかった。

診療所来院回数の抑制は患者、雇用者や保険会社の費用削減になるが、来院時診療費を保険会社からの支払いに依存する診療所には経済的な打撃となる。調査では患者はますますeメール相談サービスに興味を示してきているようだが、そのことは診療所などプライマリケア部門に重荷になりつつある。本格的にメールサービスに対応するためには、診療所の新たなビジネスモデルを構築する必要があるからだ。

たしかにメールを患者-医師間で活用すれば、一般的に患者の満足度は上がり、医療の生産性は高まり、医療クオリティも高まるはずである。だが現実には、医療機関側の売り上げダウンが起きているわけである。

これまた、かつてインターネット黎明期に、セキュアなメールを利用する「医師-患者メッセージング・サービス」というビジネスがもてはやされたことがあった。その代表格はRelayHealth社であったが、結局あまりかんばしい業績も上げられず苦戦している。その理由は、この調査結果が示すような、患者来院数減少という事態を医療機関側が警戒したためだと言われている。実際、今日に至るまでメール対応は、医療機関側の消極的な姿勢もありさほど進んでいない。

また、このような「患者の利益が医療機関の損失になる」という事態は、メールサービスのみならず医療IT導入一般に言えることかもしれない。「医療費削減」を唱えるだけではこの局面を打開することはむつかしい。

どうやら、医療機関側の新たなビジネスモデル開発が、今まさに必要とされているのだろう。先日触れたリテールクリニックのような、新しい業態開発も必要だ。「顧客利益と生産性の極大化」という相反要因の両立は、一見難しそうに見えて、他の産業ではこれまで普通に行われてきたことである。医療業界ではマーケティングという概念は成立しないのか?。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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