リテールクリニックと米国医師会

minuteclinic

近年、ウォルマートなど大手量販店併設のリテールクリニック(コンビニ診療所)が、急速に米国で拡大している。これに対し、深刻な危機感を持ったアメリカ医師会(AMA)は、リテールクリニックに対する規制強化の法制化へ向け活動を開始した。これをめぐって、特に患者生活者側から医師会に対し厳しい批判が上がっている。
米国生活者の支持を得て拡大するリテールクリニック

リテールクリニックは、大手量販店のインストア診療所であり、ショッピングのついでに立ち寄れるし、休日なしで予約不要という便利さが生活者に受けている。ウォルマートやウォルグリーンなど大手量販チェーンは、今後この業態を全国的に拡大する予定で、ここ数年間に全米で数千件がオープンする見込みである。

リテールクリニックは医師が常駐せず、主として看護師が患者に対応し処方箋まで発行する。また、診療費も無保険者で一回60ドル以下、被保険者では20ドル以下の自己負担で済む。従来診療所が無保険者で100ドル以上であったのに比し、圧倒的に安価なのが生活者に支持されている理由であるといわれている。また、たいていのリテールクリニックが耳感染、鼻炎、咽頭炎、そして水虫など、重篤ではない病気の治療をしている。

米国医師会(AMA)の反撃

これに対し米国医師会(AMA)は先週初めシカゴで会合を持ち、州政府や連邦政府に向け、リテールクリニックの広範な実態調査を開始するよう声明を出した。

「われわれの第一の焦点は患者の安全と患者ケアにある。だが、リテールクリニックは製品と処方箋の販売という違ったミッションを持っているようだ」。イリノイ州医師会会長でリテールクリニックに対する辛口批評で知られるAMAのロドニー・オズボーン医師は言う。「われわれはこれらクリニックに責任を負ってもらいたいのだ。」

実はこれまでも、AMAはリテールクリニックに規制の網をかぶせ、圧力を掛けてきたのである。カリフォルニア州ではリテールクリニックの開業主体は「医師が所有する企業でなければならない」と決められているが、これも医師会の活動によってリテールクリニック増加抑制のために作られた規制である。これによって、カリフォルニア州ではリテールクリニックを新たに開設することが困難になったという。

AMAの保護主義に対する批判
「AMAの動きは患者よりも医師の利益を先行させる、非常に保護主義的な動きである」とリテールクリニック側は反発している。リテールクリニック側は、リテールクリニックが従来診療所との競合をめざすものではなく、むしろ従来診療所を補完するものだという。

「AMAが反対するのは、彼らの銀行口座が影響を受けつつあるからだ」。ニューヨークの看護師にして弁護士のエディー・ブラウス氏は言う。「医師がリテールクリニックに反対する本当の理由は、患者の安全やケアのクォリティなどとは無関係だ。むしろそれは純粋に利益第一で競争に反対する拝金主義のためだ。」

また患者や生活者からは、「鼻炎や水虫の治療が『患者の安全、ケアのクォリティ』とどう関係するかAMAは説明せよ」との批判があがっている。

リテールクリニックは、米国の危機的な医療コスト増大問題を解決するものとして期待されてきた。医療資源の効率的な資源配分、あるいは生産性の向上という観点に立てば、従来のトラディショナルな医療提供チャネルは明らかに効率が悪すぎた。リテールクリニックの登場は、かつての流通業界における業態革新に対応するかのように、低コストでしかも高い顧客利便性を提供するものであった。また患者の病状、ニーズに応じて、医療も一様な対応ではなく、多様な医療提供方法が求められているのである。つまり、医療業界において、高い顧客満足と多様なサービス提供を実現する新たな業態が開発されたのである。

これに対するAMAの対応は、まるでかつての日本の「大店法」による量販店出店規制と同質の保護主義政策を想起させるものである。リテールクリニック陣営が指摘するように、まさに患者・生活者の利益を図るのではなく、自分たちの従来利権保護ばかりが際立ち、これでは社会的な支持を得ることはむつかしいだろう。

日本では・・・・・・・・

しかし当面、日本でこのような事態がおこることは残念ながらない。顧客のニーズをめぐり、顧客のためのより良き競争も起きそうもない。第一、この米国リテールクリニックのようなアウトサイダーからの挑戦が不可能なのだ。株式会社の医療機関経営参入を、つまり医療機関経営の自由をいつまで阻止すれば気が済むのか。

だがこのリテールクリニックの一件で、一応「医療市場」があるかのように見える米国でさえ、そもそも「医療者のギルド団体」というものが、いかに保守的な利権団体であるかということはよくわかった。

Source: Chicago Tribune,Published June 26, 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


リテールクリニックと米国医師会” への1件のコメント

  1. ピンバック: simpleA@hatena

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>