海外の動向2:GoogleCo-op と GoogleHealth

前回、オーガナイズド・ウイズダムを紹介する中で、バーティカル検索エンジンのことに少し触れましたが、正確に言うと、オーガナイズド・ウイズダムの場合はバーティカル・エンジンとは呼べません。オーガナイズド・ウイズダムのように自前で外部から調達した医療情報と、ユーザーが自社サイトで生成してくれた情報だけを検索するのでは、これは単にクローズドなデータベースであるだけです。

バーティカル・エンジンという場合、その検索対象は、Web上に広がりながら存在する特定の「信頼性のあるサイト」群というふうに考えるべきでしょう。バーティカル、つまり「垂直」という言葉には、「特定の分野に特化し、深化する」という意味がこめられています。

医療情報のバーティカル検索エンジンには、すでにHealthLineやHeliaというサービスが存在するのですが、それらはいずれご紹介するとして、今回は検索エンジンの巨人Googleの医療分野への取り組み方を見ておきたいと思います。Google Co-op

期待倒れのGoogle Health

昨年春、三月から五月にかけて、米国では「どうやらGoogleが医療情報サービスを開始するらしい」という噂が広まりました。そして5月3日付け「USA Today」紙に、「Googleの新しい医療情報サービス『Google Health』が今週水曜日10日に発表されるだろう。」という記事が掲載されました。そのサービスの中身をめぐって、Web上ではさまざまな憶測が飛び交い、期待は高まりましたが、結局「Google Heralth」なるものはリリースされず、そのかわりに「Google Co-op」というサービスがひっそりと登場したのです。その中身には、たしかにHealthという分野は明示されていたのですが、そのなんともわかりにくい外見に、皆クビをひねったものです。

検索エンジンの生協、知の生協

しかし、その後、Google Co-opは改善を加えられ、現在ではかなりその目指すところは明確になってきています。やはり「Co-op」というネーミングはダテや粋狂ではなく、そのものズバリ、「検索エンジンの生協」を目指したものだったのです。 その「生協」には二つの側面があります。

  • Googleの検索エンジンを、誰でも自由にカスタマイズして、自分のサイトで利用できる
  • 特定分野のエキスパートとしてCo-opに参加し、特定分野のWebサイトやページをみんなで評価し整理していく

以上、二つの側面のうち、Googleが最初にリリースしたのは後者でした。医療のエキスパートとして、まず下記の団体がGoogle Co-opに参加したのです。いずれも米国医療界の錚々たる顔ぶれです。

  • National Library of Medicine
  • Centers for Disease Control and Prevention
  • HON(Health On The Net Foundation)
  • Harvard Medical School
  • Mayo Clinic
  • University of California, San Francisco
  • Kaiser Permanente

これらエキスパートをGoogleはContributerと呼んでいますが、これは現在26団体(個人含む)に拡大しています。ユーザーは、これらコントリビューターが「信頼できる情報」としてアップした情報を「購読」登録することができます。これは、ユーザーがGoogleで医療情報を検索した時、その結果画面上部に、これらコントリービュータが推薦する情報がリスト提示されるわけです。もはや言い古された言葉ですが、「フォークソノミー」の専門家版といっても良いでしょう。「ソーシャル・サーチ」という言葉も、この時に使われ始めたと記憶します。

このようにGoogleは、医療情報のバーティカル検索を、フォークソノミーを利用して実現しようと考えたわけです。この際、「医療情報の信頼性と質」は、コントリビュータの専門的知識と経験によって担保されるわけです。なかなかにうまい方法です。Co-opは「知の生協」でもあったのです。

さらにこれだけではなく、Google Co-opは個人や企業にもバーティカル検索機能を広く提供しています。たとえば個人が「胃がんの検索サイトで信頼でき、重要なのは、このサイトとこのサイト・・・・」というふうに、個人の情報源を特定しているとき、Co-opに登録しておけば、これらサイトだけに限定した検索をかけることが可能になります。またこれら個人が探し出し、Co-opを使ってカスタマイズした特化型検索エンジンは、他人が誰でもオープンに利用することができるのです。つまり個人や企業が自由に作り出した特化型検索エンジンを、みんながニーズに応じて使い分けることができるようになります。

用途や使用権限をガチガチに限定し、「コマンド&コントロール」するのではなく、「オープンなバーティカル検索」というものを構想しているところが、Co-opといわれる所以であり、またGoogleという企業の素晴らしいところです。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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