製薬メーカーが医療ブロゴスフィアへ進出

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今月、6月4日から医薬品など総合ヘルスケア用品メーカーであるJohnson & Johnsonが、オフィシャル・ブログをローンチし、米国の医療ブロゴスフィアで話題になっている。

なぜJohnson & Johnson(以下J&Jと略)のブログ開設が話題になっているかというと、今年初めの「医療ブロガー、ディナー招待イベント事件」が医療ブロゴスフィアで記憶されているからだ。これは今年1月、ニューヨークでJ&J社が、広報活動の一環として著名な医療ブロガーをディナー招待したことに端を発する。

これに対しブロゴスフィアでは、下記の疑問が呈され論争が起こったのである。

  • 大手製薬メーカーはブロガーを丸め込もうとしているのではないか?
  • J&J社は全ての自社従業員にブログを奨励しようとしているのか?

どうやらこれらの疑問は、結局、どちらも否定されたようだ。前者については、もともとJ&J側でソーシャルメディアに取り組む計画が起動しており、このブロガー・ディナー・イベントは、単に事前のブロゴスフィア取材活動の一環であったらしい。また後者に関しても、ソーシャルメディアをオフィシャル・ブログに集約することで情報アウトプットを一本化しており、従業員ブログを認めてはいない。

今月ローンチされたオフィシャル・ブログは、J&J社コーポレート・コミュニケーション部門ディレクターであるMarc Monseau氏によって書かれている。この”JNJ BTW”(BTWは”By The Way”の略)と題されたブログについてMarc Monseau氏は次のように述べている。

「コーポレート・ブログをローンチすることは会社として一つの大きなステップだ。大企業に働くものは誰でも、何をどう言うべきかについて、たくさんの内部的な制約があることを知っているだろう。この”JNJ BTW”で、J&J社について、われわれが何をどのように、そしてなぜしているかを語ることになるだろう。われわれの会社と業界についてのニュースにコメントすることになるだろう。それは時には誤解を正すことであったり、単純により詳しい状況説明を提供することであったりするだろう(中略)」。

「われわれは、製品固有の問題、また子会社や規制問題や法的制約に関するニュースについて、いつも常に語ることが出来ないかも知れない(後略)」。

このように企業オフィシャル・ブログの限界を認めた上で、なおかつ最善を尽くす姿勢は評価されて良いと思う。だがそれでもなお、企業オフィシャル・ブログの困難性というものは大きいと思われる。ブログ主体はあくまで個人が原則であるが、企業ブログの場合、その個人が常に会社の方針を体現しているとは限らないからだ。「企業意志との一致」を優先するならば、トップが書くしかないのである。だが、トップが書くとなると、その影響力の大きさゆえに無難で安全なエントリーしか書けなくなってしまうだろう。

Web2.0は、従来のコーポレート・コミュニケーション活動のありかたまで根底から変革を迫るものであることが、このJ&Jの事例によっても理解される。従来の広告や広報のありかたが、20世紀には想像さえされなかったような方向から揺さぶられていると言えよう。

伝統的マーケティングの教科書をいくらひっくり返しても、これら新しい事象に対する方策は書かれていないのだ。このJ&Jのように、リスク覚悟で経験を積んでいくしかないのだろう。「リスク・マネジメント」などと牧歌的に語っていた時代は過ぎ去った。これからのコーポレート・コミュニケーションは、むしろリスク・テイキングで、積極的に経験値を積み上げることが必要になったのだ。

Photo by laffy4k

Building in Cleveland

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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