重厚長大ITから軽薄短小Wikiへ

wikicancer
簡単に知識、情報、体験を共有できるWikiサイトの活用が、医療分野で増えてきている。以前のエントリーでも主だったWikiサイトをリストにしたが、その後もさらに増えていく気配である。

医療分野で活躍するWiki

Wikiとは簡単にいえば、「誰でもコンテンツの制作・編集に参加できるシステム」であり、その最も成功した事例がWikipediaであることはご存知のとおりであろう。最近の動向を、ニュージーランドの”Read/Write web”がまとめてくれている。(日本語版はここ

医療Wikiは、これも以前に紹介したAskDrWikiのように、医療者や研究者が最新の専門的知識・情報を共有することを目的として作られるケースが多い。WHOのICD(国際疾病分類)改訂をWikiライクな方法で実施することが先日発表されたが、たしかに専門家コミュニティでの知識・情報共有にWikiは威力を発揮する。

だが、日本では医療者コミュニティでWikiが使われている例は、まだあまり聞いたことがない。二-三年前の話だが、われわれはある大手医療機関に、Wikiを使って生活者向けの医療百科事典を作ろうという提案をしたことがあった。

このねらいは、Web上で医療情報が氾濫している中、「医療機関が配信する情報」であれば生活者から見て「信頼できる医療情報」として重宝されるであろうということと、その医療機関が擁する多数の医師に少しづつコントリビューションを依頼すれば、低コストで多量のコンテンツが確保できるということだった。しかも出来上がった医療百科事典は、その医療機関のオリジナルコンテンツとなり、いずれ投稿が増えるにつれ、ウェブサイトにユーザーをプルするパワーを発揮するだろうとも考えた。良い事ずくめである。

だが結局、この企画は日の目を見ずにフェイドアウトしていった。理由は、たしか医療者の参加協力を取り付けるのが難しいとかなんとか、そんなことだったと思う。

患者参加型Wikiサイトとその限界

患者参加型のWikiサイトも増えてきている。だがこれももっぱら海外の話で、日本ではまだその数は少ないようだ。

WikiCancerは、がん患者のための「ストーリー、支援、情報」を共有することを目指すWikiサイトであり、Wikiのホスティングサービスとして有名な”WetPaint”を利用して作られている。この「ストーリー」とは患者ストーリーのことであり、闘病記の闘病体験と同じと考えてよいだろう。

また「ドクターと病院へのフィードバック」というコーナーがあり、これは実際に患者が体験した医師や病院に対する感想や事実を集めるコーナーである。いわば患者のクチコミ集約と言って良いだろう。そのほか、患者の体験をメインに、Web上の情報リソースなど関連情報ソースを網羅的に集約していこうという意図が見られる。よくまとまっているサイトだが、何か全体として活気がない。患者体験ストーリーも数がまだ少ないようだ。Wikiを含めいわゆるUGCあるいはUGMは、ユーザーが情報を出してくれなければお手上げである。ユーザーが情報を投稿するモチベーションが問題だが、他のたとえば”organisedWisdom”でも言えるが、一定のフォームできめられた情報をユーザーに「書かせる」ところに無理があるような気がする。

つまり「書かされる」よりは「自発的に書く」ほうが、ユーザーにとって心理的に楽でモチベーションも高いはずだ。だからUGCやUGMの場合、「ユーザーに作らせる」という発想よりも、「自発的にユーザーが作ったものをアグリゲートする」ほうがワークしやすいと思う。我田引水だがTOBYOの場合、「すでに予め存在するWeb闘病記」を起点にしているのはそのためだ。何かを「ゼロから作ること」の敷居は高い。

「重厚長大IT」からの脱却

医療とWikiというテーマからやや脱線したが、もちろんWikiとて長所ばかりがあるわけでもないが、もっと日本の医療業界で使われても良いのではないかと思う。とにかくコストが安く、簡単に構築できるところが良い。

「医療ITシステム」とか言うと、とんでもない費用と時間を要する巨大で堅牢なシステムを想起しがちであるが、肩肘張らずに、気楽に、もっと小さく始める方法があることに着目すべきだと思う。巷間いわれるWeb2.0も、「チープ革命」という大きな特徴が過小評価されているのが気になる。

web2.0の定義はさまざまにできるが、従来の「重厚長大システム」信仰から脱却し、軽薄短小発想で便利なものを実装したもの勝ち、という大きな流れがあり、医療分野においてもそこを見ていないと間違える。
個人や小集団にとっての活動チャンスが大きく広がっている事態がWeb2.0であり、またそこに医療分野も対応して行こう、コスト・イフェクティブ発想から出発しようという考え方がHealth2.0である。医療者も医療機関も、医療に関係し関心を持つすべての人々は、まず自分にできることから、小さいコストで小さく始めれば良いのだ。それにはWikiなどが最適のツールだと言えよう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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