PHRの共通基盤になるか、DOSSIAプロジェクト

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PHR共通プラットフォームをめざすDOSSIAプロジェクトをすすめるグループは、今後一年間、持続可能なビジネスモデルの研究をすすめ、2008年には問題解決の方向性を明確にすることを、このたび公表した。

DOSSIAプロジェクトとは何か

DOSSIAプロジェクトは、現在さまざまなベンダーから提供されているPHR(Personal Health Records)の共通プラットフォームをつくる民間主導プロジェクトである。

<図1>

DOSSIA1

図1に見るように、今日、個人医療データが発生する現場と、これらデータを集約するPHRサービスの間には複雑で混乱した関係が存在している。双方とも多様に分散しているので、相互にすっきりしたルートを持ちにくい現状がある。このため、PHR側ではたくさんの場所で発生する医療データを完全に捕捉することが難しく、そのため「たくさんのPHRシステムが、部分データを持ち合う」ということが起きていたのである。これは、ユーザーから見て「ワンストップで医療データ全部を処理できない」という不便を生んでいた。

<図2>

DOSSIA2

それに対し図2のような形でDOSSIAが、医療データ発生現場とPHRシステムの間に介在すれば、両者をシンプルに関係付けることができるわけである。DOSSIAが「PHRの共通プラットフォーム」といわれるのはこのためである。さらに「共通プラットフォーム」であることをめざすために、技術的な仕様も医療におけるプライバシー保護や情報交換ポリシーのために策定された”Connecting for Health Common Framework”に準拠している。

しかし、ある意味では「PHR総取り」とも言える事業であるから、既存PHRとの競合を回避し、市場競争と別次元に位置づける必要がある。そこでDOSSIAプロジェクトは非営利事業であることを表明しており、実際に開発と運用を委託されているのも非営利団体の”Omnimedix Institute”になっている。

DOSSIAプロジェクトの推進体制

DOSSIAプロジェクトは米国大企業5社(Applied Materials、BP America、Intel、Pitney Bowes、Wal-Mart)の共同出資によってまかなわれており、まず、これら出資企業の400万人に達する従業員、家族、退職者向けのPHRサービスを提供することになる。システムは、これらの人々の生涯にわたる個人医療データを記録するわけだが、転職したり退職しても、継続してデータにアクセスすることができ、また、データ・アクセス権はすべてユーザーのコントロールの下に置かれるという。

当面はこのプロジェクトの持続可能性を研究し検証する予定である。その後、Dossiaプロジェクト連合に新たな企業メンバーを追加し、各地の州政府と連携する計画である。つまり民間主導で先行し、あとで「官」を呼び込もうということのようだ。

日本であれば、はじめから「官民連携」などと空文句をいってしまうところだが、DOSSIAプロジェクトは民間主導で、しかも連邦政府ではなく、州政府の連合体を作ろうとしているようだ。もっとも今日、「官民共同、官民一体」などという言葉も死語になってきている。結構なことだ。「官需」を当てにしているようでは、どのような「業界」にも未来はない。

DOSSIAプロジェクトの意義と課題

米国のPHRシーンは、現在、乱立気味の混沌状態にある。当ブログでも主だったものは紹介しているが、それぞれ一長一短があり、そのためか肝心のユーザー利用率が低いとの報告さえある始末。つまり、多数出現したPHRであるが、ユーザーの圧倒的支持を得るには、まだ「本命」不在である。

これは、PHRが保険者や医療機関などのロック・イン(囲い込み)戦略のもとに位置づけられてしまっているためではないかと思われる。考えて見るとこの「ロック・イン」という発想自体がWeb1.0の発想であり、最早、時代遅れとなっているのだろう。もう、誰も顧客を「囲い込む」ことなどできなくなっているのだ。

それはそれとしてDOSSIAであるが、たしかにPHR共通プラットフォームという隙間に着目したことは良いアイデアであるが、問題は他のPHRプレイヤーが「共通プラットフォーム」という「コモンズ」として”DOSSIA”を見てくれるかどうかである。

各州政府とのアライアンスを模索するのも、この「コモンズ」というポジションを固めるためであろうが、果たしてうまく行くのだろうか?。

翻って日本の場合だが、このDOSSIAに一番近いプレイヤーはおそらく健保組合であろう。だがこのようなプロジェクトが日本の健保組合から登場するとは、残念ながら考えにくい。このようなプロジェクトのみならず、ウェブでの健保組合の存在感自体が低すぎる。保険者機能を情報サービスでもっと強化してもらいたいものだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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